宗右衛門町を抜け、道頓堀の灯りをたどりながら彷徨う。人で溢れ返る街の喧騒の中、静かに佇むのが「大阪うどん いなの路」である。2022年9月、相合橋商店街に産声をあげたこの店は、かつてなんばグランド花月前にあった老舗「信濃そば」の魂を受け継いでいる。50年以上愛されたその記憶を胸に、再び大阪の地に帰ってきたのだ。
扉を開けると、1階にはカウンター5席。木の温もりが落ち着きを誘う。2階にはテーブル席があり、肩を並べてうどんを啜る人々の笑い声が漂う。観光客も常連も、誰もが同じ丼を前に、思い思いの物語を口にする。
看板料理は肉うどん。ダウンタウンの浜田雅功が愛し、今では客のほとんどが注文するという。鰹と昆布の出汁に、すじ肉の旨味と甘みが溶け込み、青ねぎがさっぱりと全体をまとめる。讃岐のような強いコシを求めてはいけない。ここでは、柔らかさと出汁が一体となって心に沁みる。大阪のうどんは、歯ごたえよりも情緒を食わせる。
傍らには塩むすび。たった130円。だが、誰でも握れるわけではない。店が認めた「おにぎり検定」をクリアした者だけが、その塩梅を許される。熱々のうどんと共に頬張れば、家庭の食卓に戻ったような安心感に包まれる。
この店には、松本人志が愛した「きざみそば」もある。関西の昆布出汁に揚げが浮かび、ナルトが鮮やかに彩る。肉うどんと交互に、ボケとツッコミを繰り返すように食べ比べるのも一興。
夜の道頓堀。ラーメンの行列に疲れたとき、食難民になったとき、この店は静かに丼を差し出してくれる。
肉うどんと塩むすび、大阪の記憶をすする場所。ボケとツッコミのように、肉うどんときざみそば。路地裏で見つけた、心ほどける味。
「めっちゃ美味かったっす」と伝えると「めっちゃうまい頂きましたあ!」「ありがとうございまーす!」のシュプレヒコールが響く。ここには大阪そのものの空気が流れている。人情がコッテリ、味覚はあっさり。これぞ、大阪のうどんである。
店舗情報
店名:大阪うどん いなの路
住所:〒542-0074 大阪市中央区千日前1-8-2
TEL:06-6210-4067
アクセス
・大阪メトロ堺筋線「日本橋駅」徒歩3分
・近鉄難波線「近鉄日本橋駅」徒歩3分
営業時間
月・火・水・日:11:00~20:00
金・土・祝日:11:00~22:00
定休日:木曜
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
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過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。