食いだおれ白書

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大阪王将と道頓堀の夜〜餃子と川が奏でる物語、炒飯とノクターン

1969年、大阪・京橋に誕生した「大阪王将」。その2年前、京都で生まれた「餃子の王将」とルーツを同じくするが、現在はまったくの別会社として歩んでいる。

京都発祥の「餃子の王将」が“安さ・ボリューム・スピード”で勝負してきたのに対し、大阪王将は“家庭的な味わい”と“独自メニューの開発”に力を入れてきた。その代表が「ふわとろ天津飯」だ。ふんわり卵と秘伝のタレの組み合わせは、多くのファンを虜にしている。

看板メニューの焼餃子は、香ばしい羽根つきの仕上がりで知られる。表面はパリッと香ばしく、中はジューシー。全国に店舗を広げながらも、一皿の餃子に宿る“街中華”の気取らない魅力は変わらない。

そんな大阪王将の象徴ともいえるのが、道頓堀に構える本店だ。大阪の観光地の中心にして、1Fから4Fまで計180席を持つ巨大店舗。道頓堀の喧噪に負けない存在感を放ち、観光客はもちろん地元の人々にも親しまれている。

1階は意外に狭く、カウンター席に腰掛けると街中華らしい温もりを感じる。注文したのは「王将セット」。

餃子に炒飯、唐揚げまでついた鉄板メニューだ。餃子だけを比べれば「餃子の王将」に軍配が上がるかもしれないが、俺はやはり大阪王将派だ。天津飯や炒飯とのセットで餃子が生きる、この店ならではの“全体の流れ”が心地よいからだ。

食後は杏仁豆腐で口をリセット。ありふれた中華のデザートが、ここでは不思議と特別な締めになる。

大阪王将と道頓堀の夜〜餃子と川が奏でる物語、炒飯とノクターン

大阪王将で、もう一つのおすすめが、「元祖焼き餃子カレー」950円。ここに、紅芋団子をプラスする。皿の半分を黄金色のカレーが満たし、その縁に沿うように、焼き目のついた餃子が規則正しく並ぶ。香ばしいきつね色が、白いご飯の純白に映えて、美しいコントラストを描いている。

大阪王将と道頓堀の夜〜餃子と川が奏でる物語、炒飯とノクターン

カレーは大阪らしく、まずは甘みで舌を迎え入れる。その刹那、複雑に重ねられた二十種以上のスパイスが一気に押し寄せ、味覚の奥を細かく震わせていく。辛さというより「躍動」と呼びたくなる刺激だ。

そこに添えられた餃子は、油っぽさやクセを抑えながらも、噛むごとに肉汁と旨味が滲み出す。カリッとした羽根の食感から、ふわりとした皮の柔らかさへ。カレーとは混ぜず別々に食べること。

さらに紅芋の胡麻団子が、その流れに小さな休符を打つ。外側の香ばしい胡麻の粒が歯に弾け、濃紫色の餡の甘さが広がると、さきほどまでのスパイスの嵐がすっと静まる。最後に口へ運ぶのは、透明で優しい中華スープ。昆布と鶏の滋味がじんわりと広がり、どこか人懐っこい温もりを伴っている。華やかさではなく、心にしみる「日常のごちそう」。それが、この餃子カレーの真骨頂なのだ。

腹を満たした後は、道頓堀を歩く。1615年に完成したこの川は、戎橋を中心に人と文化を受け止め続けてきた。今は阪神高速道路が川の上を覆い、かつての情緒を奪ったように見えるが、それでも人々が集い、賑わいを生み出している。

この日は「道頓堀川万灯」の開催期間で、深里橋から日本橋まで1300灯の提灯が川沿いを照らしていた。

川面に揺れる光を見ていると、宮本輝の小説『道頓堀川』に描かれた風景がふと頭をよぎる。主人公が「陸の孤島」と感じたあの川は、今もどこか郷愁をまとっていた。

朝に到着して数時間しか経っていないのに、もう懐かしさを覚える。大阪王将で餃子を頬張り、道頓堀を歩く。そんな一日の流れそのものが、この街の夜想曲「ノクターン」だった。

大阪王将 道頓堀本店

  • 住所:大阪府大阪市中央区道頓堀1-6-13
  • 座席:101席
  • 営業時間:11:00~22:30(LO.22:00)
  • 定休日:なし
  • 電話:06-6213-0400

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