
「正義」という言葉が、これほど似合う食べ物はない。屋台を超えた屋台の焼きそば。それが「日清焼そばU.F.O.」である。我々は「UFO焼きそば」と呼ぶ。
三輪そうめんの製造業を営む家に生まれた。幼少期は極端に好き嫌いが激しく、大学生になるまで、ほぼ麺と肉類しか食べられなかった。母が作ってくれた手料理の憶い出は、正直あまりない。その代わり、テーブルの上にはいつも、日清さんのチキンラーメン、どん兵衛、そして「日清焼そばU.F.O.」があった。
三輪そうめん、ラーメン、うどん、焼きそば。
麺類の英才教育を、自主的に受けて育ったようなもの。だから麺に関しては、誰よりもうるさい。いや、うるさいというより、面倒くさい。
新宿・歌舞伎町にある「焼きそば かぶきち」は、飲食店として日本一だと思っている。焼きそばという料理の限界値を叩き出している。
それでも、「日清焼そばU.F.O.」を超える焼きそばには出逢っていない。
「日清焼そばU.F.O.」の歴史

初代「日清焼そばU.F.O.」
日清焼そばU.F.O.が産声を上げたのは、1976年5月21日。
直径18.0cm、高さ約4.8cm。日本初の皿型カップ麺が生まれた。「どん兵衛」より3ヶ月早い発売である。どん兵衛より先に、U.F.O.は飛んでいた。
商品名の「U.F.O.」は、未確認飛行物体のことではない。「うまい」のU、「太い」のF、「大きい」のO。つまり、うまい、太い、大きい。名前からして、食欲にしか興味がない。宇宙の神秘ではなく、麺の快楽である。

焼きそばにキャベツを使うという発想は、当時のカップ焼きそばにはなかった。これが業界初の試み。カップの中にキャベツを入れる。いまでは当たり前に見えるが、最初にやった人はかなり攻めている。

カップ焼きそばとしては、1974年7月発売の恵比寿産業「エビスカップ焼そば」、1975年9月発売の「マルちゃん やきそば弁当」「ペヤングソースやきそば」に続く登場だった。
U.F.O.は後発である。なのに、強かった。
1978年のテレビCMにピンク・レディーを起用してから、爆発的なヒット商品となる。当時のカップ焼きそば市場でシェア60%超を獲得したのだから、とんでもない。後から来た円盤が、先行勢を一気に上空から制圧した。まさに未確認飛行物体。

1991年には、現在も続く角型容器の「日清焼そばU.F.O. ビッグ」が登場した。ただ、これは個人的にはU.F.O.への冒涜だと思っている。U.F.O.は円盤であってナンボだ。

1996年には、味変として「日清焼そばU.F.O. 青春カレー」が登場。翌年には「わさびマヨ」、1998年には「シーフード」、2004年には「塩やきそば」など、味変ドリクスを繰り返していく。

当初のパッケージは、赤と白を基調とした日の丸カラーだった。だが1997年、具材に豚肉を加えたリニューアルと同時に、赤と黒の配色へ変更される。
湘北高校カラーである。白と赤の素朴な国民食から、赤と黒の戦闘モードへ。ソースの濃さも、パッケージの圧も、ここから一段ギアが上がったように感じる。
2002年には、麺重量が半分の「日清焼そばプチU.F.O.」を発売。2011年には、麺を「3層太ストレート麺製法」でより太く、より食べ応えのあるものに進化させた。2024年には、ソースを現在の「ぶっ濃い濃厚ソース」と命名。香るだけでは足りない。口の中を支配してこそ、U.F.O.である。

さらに「日清焼そばU.F.O. 爆盛バーレル」という、麺2玉、180gのサイズも登場した。
湯切りと祖母の憶い出

「日清焼そばU.F.O.」には、今も忘れられない思い出がある。小学生の頃、家族が外出し、家に自分と祖母の二人だけになったことがあった。
祖母は料理をする人ではなかった。たまにネギ焼きなどをおやつに作ってくれたが、日常的に台所へ立つのは母。祖父が「どん兵衛」をケース買いしていたので、カップラーメンを作ることはあった。しかし、カップ焼きそばを作ることはなかった。
祖母は「湯切り」という工程を知らない。ここが、すべての始まりだった。その日、自分は昼食に「日清焼そばU.F.O.」を食べようとしていた。すると祖母が言った。
「作ったる」
ありがたい。だが、少し不安でもある。
「ええよ。自分で作るわ」
そう言ったが、祖母は引かない。
「ええから、作る作る」
孫の世話をしたいのだ。せっかくの好意を無碍にするのも悪い。祖母はお湯を沸かし、U.F.O.作りに入った。自分はテレビを見ながら待っていた。
数分後、円盤がテーブルに運ばれてきた。パッケージは完全にめくってある。そこにあったのは、いつもの「日清焼そばU.F.O.」ではなかった。
容器いっぱいにお湯が入った焼きそばだった。
ラーメンである。完全にラーメンである。
昭和ひとけた生まれの祖母は、U.F.O.を焼きそばではなく、カップラーメンだと思ったのだ。湯切りをしていない。ソース焼きそばになるはずの円盤が、なぜか湯船につかっている。麺はのびのびとしている。ソースの気配は薄い。U.F.O.なのに、飛ばない。沈んでいる。
「何してくれてんねん」と言うのは簡単だ。しかし、祖母は好意で作ってくれた。孫に食べさせようとしてくれた。その気持ちを、真正面から否定することはできない。
自分は黙った。しばらく待ち、祖母がいなくなってから、そっとキッチンの流し台へ行った。そして、お湯を捨てた。
だが、もう遅い。麺はすっかり伸びている。ふやけている。お湯をたっぷり吸っているので、ソースを絡めても味が薄い。しかも完全にお湯を捨てきれない。結果、焼きそばでもラーメンでもない何かを食べることになった。
U.F.O.のはずが、未確認液状物体になっていた。それでも、食べた。祖母の好意が入っていたからだ。
あの日、自分はひとつの世界の理を学んだ。好意は、必ずしも良い結果につながるとは限らない。そして、日清焼そばU.F.O.において、湯切りは命である。
いまでもU.F.O.を作るたびに、あの昼のことを思い出す。テーブルに置かれた、湯気を立てる円盤。焼きそばになるはずだったもの。祖母の「作ったる」という声。
そして、湯切りは命であるという、鉄の掟を。
「日清焼そばU.F.O.」

丸い円盤型の容器いっぱいに、赤、黒、黄色が派手に配置されている。中央には大きく「U.F.O.」のロゴ。カップ焼きそばというより、巨大な看板か、ゲームセンターの景品機のような勢いがある。

いつだって、UFOは未知との遭遇。食べ慣れた味であっても、初心者の気持ちで挑む。

カロリーは556。ゴーゴーロクの蓬莱と同じ。関西人にとって、マジックナンバーである。

ソースをかけた瞬間、香ばしい匂いが広がる。甘辛くて、濃くて、少し焦げたような屋台の匂い。さらに青のりをかけると、今度は爽やかな磯の香りがふわっと立つ。
この2段パフュームが、U.F.O.の強さだ。まずソースの濃厚な香りで食欲をつかみ、次に青のりの香りで一気に焼きそばらしさを完成させる。もはや香水である。ソースの香水。青のりの香水。食べる前から、鼻が完全にU.F.O.に支配される。
実際の麺は、ソースがしっかり絡んでいる。麺の表面に均一にソースがまとわり、艶が出ている。カップ焼きそば特有の、少しぎゅっと詰まったような麺の密度もある。ふんわり軽い焼きそばではなく、濃いソースを受け止めるための麺だ。
濃い。派手。香る。食欲にまっすぐ来る。ソースで殴り、青のりで抱きしめる。ただの麺がU.F.O.になる。この変身こそが、日清焼そばU.F.O.の正義だ。
「日清焼そばU.F.O.」アレンジレシピ

「日清焼そばU.F.O.」を最も美味しく食べる方法は、日本一カッコいい男から生まれた。名付けて、「キムタク納豆キムチ日清焼そばU.F.O.」
名前が長い。だが、強い。この魔法のレシピは、木村拓哉のYouTubeで紹介されたアレンジが元になっている。キムタクはペヤングで実践していたが、こちらはU.F.O.でやる。なぜなら、U.F.O.はソースが強いからだ。
2005年には「日清焼そばU.F.O. キムチU.F.O.」という商品も登場している。しかし、正直に言う。このアレンジのほうが、100億倍うまい。

普通に「日清焼そばU.F.O.」を作る。湯切りをする。ソースを絡める。青のりをかける。ここまでは通常運転。そこに、キムチ、納豆、オリーブオイルの三種の神器を添える。
以上。料理と呼んでいいのか分からないほど簡単だが、味は事件である。

キムチ。こいつを加えると、U.F.O.のジャンク感が一気に跳ね上がる。もともと濃いソースに、キムチの辛味と酸味が殴り込んでくる。甘いソースとキムチの辛味の連弾。濃厚ソースが低音なら、キムチは高音のギターである。口の中で、焼きそばロックフェスが始まる。
次に、納豆。これが意外にも合う。いや、意外どころではない。合いすぎる。
納豆のねばりが、ソースをまとった麺に絡む。麺、ソース、納豆の粘りが一体化し、普通の焼きそばにはない重心が生まれる。U.F.O.の麺が、急に“ご飯泥棒”みたいな顔をし始める。焼きそばなのに、定食の主役みたいな説得力が出る。
そして最後に、オリーブオイル。ここで世界が変わる。キムチと納豆だけだと、かなり強い。発酵食品同士が真正面からぶつかるので、味の圧がすごい。そこにオリーブオイルをたらすと、食感と風味が一気にまろやかになる。角が取れる。辛味が丸くなる。納豆の粘りが艶に変わる。ソースの濃さに、どこか洋風の余韻が加わる。
U.F.O.、納豆、キムチという完全に日本の食卓の暴走に、オリーブオイルが参戦。和、韓、伊、そして日清。食卓の国際会議である。
最初にU.F.O.のぶっ濃いソースが来る。次にキムチの酸味と辛味。そこへ納豆の旨みと粘りが追いかけてくる。オリーブオイルが全体を包み、口の中を艶やかにまとめる。
そして何より、このアレンジの凄いところは、U.F.O.の強さが消えないことだ。
キムチも強い。納豆も強い。オリーブオイルも香る。普通の焼きそばなら、完全に主役を奪われる。だが、U.F.O.は負けない。ぶっ濃い濃厚ソースが土台にあるから、全部を受け止める。むしろ、具材が増えるほど王者感が増す。
キムチでキレを出し、納豆で旨みを足し、オリーブオイルでまろやかにまとめる。
これは、U.F.O.の第二形態である。ソースで殴る。キムチで斬る。納豆で絡め取る。オリーブオイルで抱きしめる。
これはもう、食卓に現れた、発酵系ジャンクフードのラスボスである。
日清焼そばU.F.O. だし醤油きつね焼そば

U.F.O.は最強の相棒を召喚した。2021年に初登場した「日清焼そばU.F.O. だし醤油きつね焼そば」である。
丸いU.F.O.の容器に、巨大な「どん兵衛」の文字が突き破るように入っている。赤と黄色のU.F.O.ワールドに、どん兵衛が乱入してきたようなデザイン。まるで、長年別々のリングで戦ってきた二大スターが、ついに同じ舞台に立ったような迫力がある。

U.F.O.とどん兵衛の合体技。U.F.O.ならではのコシのある中太ストレート麺に、どん兵衛らしいかつおだしの風味をきかせただし醤油つゆが絡む、うまみ豊かな一杯である。

2023年には、醤油ダレの配合を見直し、メンマのクセを抑え、醤油の旨みをアップ。つまり、ただのコラボ商品ではない。ちゃんと進化している。U.F.O.は飛びながら成長する。パッケージからして、すでに面白い。

ただし、フタを開けると少し戸惑う。基本はU.F.O.焼きそばである。中の麺も、容器も、作り方もU.F.O.。中に入っているのは、緑の「液体だしソース」と、赤い「特製追いだし粉」
どん兵衛のカップうどんのような見た目ではない。最初は「どん兵衛要素どこ?」と思う。下手をすれば、どん兵衛詐欺になりかねない。

だが、食べると分かる。これはU.F.O.であり、どん兵衛である。ハイブリッドではない。フュージョンだ。

悟空とベジータが合体してベジットになるように、U.F.O.とどん兵衛がひとつになっている。別々の良さを足しただけではない。まったく別の強さになっている。
ソースを絡めた瞬間、いつものU.F.O.とは香りが違う。濃厚ソース焼きそばの荒々しさではなく、かつおだしの風味がふわっと立つ。焼きそばなのに、だしがいる。U.F.O.なのに、和の気配がある。
濃厚な焼きそばでありながら、どこか上品。ソースで殴るいつものU.F.O.とは違い、だし醤油が静かに攻めてくる。祭りの屋台で食べる焼きそばではない。神社の例祭で、夕暮れにいただく焼きそばである。ざわざわした熱気ではなく、少し厳かな空気がある。

麺はU.F.O.らしく、しっかりしている。中太ストレート麺のコシがあり、だし醤油のつゆをきちんと受け止める。濃厚ソースのための麺かと思いきや、和風だしにも見事に合う。U.F.O.の麺の懐の深さを思い知らされる。
そして、どん兵衛の象徴である油揚げ。カップうどんの油揚げとは違い、焼きそばの中に入ることで、また別の顔を見せる。だし醤油を吸い、麺の中に紛れ、噛むとじゅわっと旨みが出る。うどんの相棒だった油揚げが、焼きそばの親友になっている。
余計な具がないのもいい。あれこれ足さない。麺とだし醤油と油揚げ。この三者だけで十分成立している。むしろ、ここに第三の男が入ってはいけない。友情を邪魔してはいけない。
何も引かず、何も足さない。それがこの一杯の正義である。
「日清焼そばU.F.O. だし醤油きつね焼そば」は、ソース焼きそばの暴力性を、どん兵衛のだしで和らげた一杯ではない。U.F.O.の麺の強さと、どん兵衛のだしの品格が、真正面から融合した一杯だ。
濃いのに和風。ジャンクなのに美人。焼きそばなのに、どん兵衛。
U.F.O.は未知との遭遇だが、この「だし醤油きつね焼そば」は、未知の中でもかなり完成度が高い。食べ終えたあと、思わず思う。U.F.O.とどん兵衛、もっと早く合体してくれればよかったのに。これはカップ麺界のベジットである。
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