
大阪・なんばの中心に佇む「純喫茶 アメリカン」は、昭和21年に創業した老舗の喫茶店。戦後間もない時代に「美味しい料理で人々を元気づけたい」という祖父母の想いから始まり、現在は三代目がその精神を受け継いでいる。

当初は「花月」という屋号で営業していたが、のちに覚えやすく親しみやすい「アメリカン」と名を改め、街の発展とともに歩んできた。

内観は、エントランスに設けられた優雅な螺旋階段がひときわ目を引く。店内に足を踏み入れると、1階には640枚の木材とステンドグラスを組み合わせた壁、2階には川島織物の緞通があしらわれ、ネオクラシックな雰囲気が漂う。季節の生花が飾られた空間は、訪れるたびに心を和ませてくれる。大阪で初めて観音開きの自動扉やジュークBOXを導入するなど、常に新しい試みに挑んできた姿勢も、店の歴史を物語っている。

看板メニューのひとつが「イタリアン」だ。現在ではナポリタンと呼ばれるが、かつて関西ではイタリアンが一般的な呼び名だった。アメリカンでは今も昔ながらの呼び方で提供している。自家製のトマトケチャップで味付けされた麺は甘すぎず、具材はハム、玉ねぎ、マッシュルーム、ピーマンとシンプルながら、麺の存在感が際立つ。家庭で作るナポリタンとはまるで別物で、懐かしさと奥深さを併せ持つ味わいだ。

白い皿にやややわらかめのスパゲティ、その上に野菜と挽き肉を煮込んだ濃厚ミートソースがたっぷり。炒め玉ねぎの甘みと肉の旨みが前に出て、口当たりはとろりと優しい。卓上の胡椒や粉チーズで味変するとさらに奥行きが増す。付け合わせのサラダが口をリセットし、またソースに戻りたくなる。派手さはないが安心感のある味わいで、純喫茶らしい一皿だ。

ドリンクは、7種の豆を独自にブレンドしたコーヒーをはじめ、名物のクリームソーダも人気。若大将・加山雄三も必ず注文するというこの一杯は、オトナ向けに甘さを抑えた仕上がり。

高級和菓子にも用いられる糖蜜をブレンドしたシロップを使い、キレのある炭酸とアイスのシャリシャリ感が爽快感を演出する。夏に一度は味わいたい至福の定番だ。

スイーツも見逃せない。マスカルポーネを贅沢に使ったティラミスは、濃厚なチーズケーキのようなリッチさがあり、子供の頃にご褒美として頬張った懐かしさを思い出させる。

「オペラ」と名づけられたケーキは、重ねられた層が豪華絢爛なパリのオペラ座を思わせる逸品で、日本一とも評される完成度を誇る。店内のクラシカルな装飾と響き合い、まさに“甘さの聖域”と呼ぶにふさわしい一皿だ。

「儲けはすべてお店につぎ込む」という初代の言葉どおり、料理だけでなく空間や調度品、スタッフの制服に至るまで、徹底したおもてなしの心が息づいている。
三世代、四世代にわたり訪れる常連客も多く、観光やショッピングの合間に立ち寄る人々にとっても、心安らぐ場所であり続けている。

大阪なんばの記憶を刻む、純喫茶アメリカン。創業から80年近く、変わらぬ想いと時代に合わせた工夫を重ねながら、「純喫茶 アメリカン」は今日も大阪の街で人々を迎え続けている。
純喫茶アメリカンの店舗情報
- 店名:純喫茶 アメリカン
- 住所:〒542-0071 大阪府大阪市中央区道頓堀1-7-4 株式会社アメリカンビル
- アクセス:大阪メトロ御堂筋線・四つ橋線・千日前線「なんば駅」から徒歩5分
- 営業時間:10:00〜22:00
- 定休日:12月31日、月に3回程度の木曜日
- 電話番号:06-6211-2100
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。