

扉を開けると、アンティークな内装が迎えてくれる。曲線を描いたカウンターは大きな一枚板で、その奥にはボヘミアガラスの工芸品や洋酒のボトルが並ぶ。
女将のシゲ子さんの趣味が隅々にまで反映され、照明や小物に至るまで統一された世界観が広がっている。

この店ではレコードがBGMだ。シゲ子さんに「好きなレコードかけてくださいな」と促され、初めて針を扱おうとして戸惑うと、「そのやり方じゃ壊れてしまうのよ」と優しくレクチャーを受ける。丁寧に針を落とすと、Beatlesが店内に響き、時間が一気に逆戻りするような感覚に包まれる。

カウンターには食材が並び、それすらもインテリアの一部として馴染んでいる。名物は「麓鳴館カレー」。欧風仕立てで、ジャガイモやウインナー、玉子が丸ごと入った具沢山の一皿だ。この日は、日替わりで添えられるニンニクの芽と一緒に供され、香ばしい風味がカレーの奥行きをさらに引き立てていた。

カレーとBeatlesの相性が驚くほど自然で、口に運ぶたびに音楽と料理が共鳴するようだ。

食後には珈琲とともに黒砂糖がおつまみとして添えられる。砂糖をかじりながら一服するのがこの店流のおもてなし。

19席ほどの小さな空間で、ひとり静かに過ごす客もいれば、シゲ子さんとの会話を楽しみに訪れる常連もいる。料理の提供に少し時間がかかることもあるが、それすらもこの店で流れるゆったりとした時間の一部だ。
心斎橋の裏路地にある隠れ家「麓鳴館」は、欧風カレーと音楽、そして女将の人柄に惹かれて人が集まる場所だ。都会の真ん中で、昭和の純喫茶文化とシゲ子さんのセンスが今も息づいている。
麓鳴館の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 麓鳴館(ろくめいかん/ろくめい舘) |
| 住所 | 大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-3-12 |
| 最寄駅 | 心斎橋駅 徒歩2〜3分程度 |
| 開業年 | 1974年 |
| 席数 | 約19席 |
| 営業時間 | 14:00〜19:00 |
| 定休日 | 不定休 |
| 予約 | 不可 |
| 支払い方法 | 現金のみ |
| 駐車場 | なし |
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。