
大阪のカレーといえば「自由軒」を思い浮かべる人は多いが、もう一つ、確かな存在感を放つ老舗がある。黒門市場の一角、堺筋の入り口に立つ「ニューダルニー」だ。堺筋から黒門市場へ足を踏み入れると、まずオレンジの看板が目に飛び込んでくる。その先には神戸牛の店が並び、やがて海鮮市場へと景色が変わっていくが、この香りこそが黒門の“入口の記憶”だ。

「ダルニー」の歴史は戦後間もない昭和22年、1947年に始まる。先代が中国・大連の租界から引き揚げ、大阪・阿倍野で店を構えたのが原点だ。その味は時代を超えて受け継がれ、現在は2代目が暖簾を守る。黒門市場へ移転した際に店名を「ニュー・ダルニー」と改め、今はご夫婦2人で切り盛りしながら、創業以来変わらぬ“なにわの素朴な味”を大切にしている。
赤レンガ色の壁に、ひときわ目を引くオレンジ色の看板。昭和の面影を色濃く残す外観は、市場の喧騒に溶け込みながらも独特の存在感を放つ。派手さはないが、「ここでしか食べられない味」を求めて、長年通い続ける常連客が後を絶たない。

看板メニューは「ビーフカレー(700円)」。見た目はサラサラとトロトロの中間で、スプーンを入れるとゆるやかに波打つ。サイコロ型の牛肉はすでに原形を留めず、じっくり煮込まれた牛肉や野菜の旨味がすべてルーに溶け込んでいる。
ひと口含むと、舌の上でとろけるように広がり、どこか懐かしさを覚える。辛さは控えめだが、油断していると後からピリピリとした刺激が追いかけてきて、気づけば額にうっすら汗がにじむ。官能すら感じさせる。優しいのに厳しい、そんな二面性を持った味わいは、思わず「理想の家族みたいなカレーだ」と言いたくなる皿だ。食べ終える頃には、体の芯からじんわり温まっている。
揚げ物好きなら、「ポークカツカレー(880円)」や「エビフライカレー(880円)」も外せない。注文を受けてからフライヤーで揚げるカツやエビフライは、衣がサクサクで香ばしく、カレーとの相性も抜群。素朴なルーが、揚げ物の旨さをしっかり受け止めてくれる。

そして、もう一つの名物が「カレーうどん(780円)」だ。もともとはまかない料理だったが、常連客の「それ食べたい」という一言から定番メニューに昇格した。ビーフカレーに和風出汁を合わせ、注文ごとに一杯ずつ仕上げる。食べ進めている間は意外なほどあっさりとしているのに、後半になると体が内側から熱を帯び、口の中にはカレーの深い余韻が残る。うどん文化の大阪にあって、カレー専門店ならではの技が光る一杯だ。
少し話を聞くと、ご主人は黒門市場についてこう語ってくれた。黒門は50年前から人が多く、むしろその頃が全盛期だったという。しかしインバウンド路線へ大きく舵を切ってからは、値段も雰囲気も変わってしまった。「今の黒門市場は黒門市場とちゃう」と、ぽつりと漏らす言葉には、長年この地を見てきた人ならではの実感がにじむ。

黒門市場を歩き疲れたとき、ふらりと立ち寄りたくなる場所がある。それがニューダルニーだ。戦後から続く大阪カレーの老舗は、時代や街の姿が変わっても、変わらぬ味わいで、今日も市場を訪れる人々と地元の常連を静かに迎え続けている。
- 住所:大阪市中央区日本橋2-12-16
- 電話番号:06-6633-4080
- 営業時間:9:00~16:00
- 定休日:日曜・祝日