食いだおれ白書

世界を食いだおれる。世界のグルメを紹介します。孤高のグルメです。

新世界「とんかつ割烹 車屋」〜通天閣の灯火、出汁香る人情割烹

通天閣本通り商店街を歩いていると、きらびやかな看板や観光客のざわめきに目を奪われがちだ。

ふと視線を落とすと、小さなフクロウの置物がこちらを見つめている。その横にかかる木の看板に、静かに「とんかつ割烹 車屋」と刻まれている。2005年に開業したこの店は、派手な通天閣界隈にあって、ひときわ落ち着きを纏う。

暖簾をくぐると、そこには割烹を思わせる静謐な空気が流れていた。カウンター11席、テーブル8席、わずか19席の小さな空間。だが、L字のカウンターに腰を下ろすと、目の前に並ぶ器や調理道具が、これからの一皿への期待をいやが上にも高めてくれる。厨房には75歳になるお母さんと、その息子であろうご主人。二人三脚で切り盛りする姿に、家業の確かな温もりを感じる。

昼はとんかつ定食が900円。夜は京料理の懐石が主役に変わる。通天閣の修繕工事で街を行き交う職人たちが、作業着のまま暖簾をくぐる。常連は「今日の日替わりは何や?」と訊く。この日はハンバーグ。あちこちから声が飛び交い、店内は小さな劇場のように活気づいていく。

運ばれてきた定食は、まず炊き立ての白飯の艶に心を奪われる。漬物、小鉢、汁物。どれも手を抜かず、ひと口ごとにじんわりと滋味が広がる。そして主役のとんかつ。サクリとした衣に、和風の出汁がふわりと染み込んでいる。ソースに頼らずとも、噛むたびに肉の旨みと出汁の余韻が舌を喜ばせる。これで九百円。安すぎて申し訳なくなるほどだ。日本一、と心の中で呟いた。

食べ終わって腰を上げると、ご主人が「もう帰んの?」と笑う。短い会話の裏に、歓迎の気持ちがにじむ。出口でお母さんが「いってらっしゃい、気ぃつけて」と声をかけてくれる。そのひとことが、料理の余韻と重なって胸に残る。味わったのは、とんかつだけではなかった。なにわの人情もまた、この店の旨味なのだ。

新世界の喧騒の中、車屋は小さな灯のように佇む。訪れる者をそっと包み込み、そして送り出す。旨さと温もりを胸に、通天閣を背に歩き出すとき、また戻ってきたくなる場所がひとつ増えていることに気づくのだ。

「とんかつ割烹 車屋」 店舗情報

  • 店名:とんかつ割烹 車屋(くるまや)
  • 所在地:大阪府大阪市浪速区恵美須東1-19-2(通天閣本通り商店街内)
  • アクセス:大阪メトロ堺筋線「恵美須町駅」徒歩2〜3分、通天閣からすぐ
  • 電話番号:06-6644-5937
  • 創業:2005年開業
  • 営業時間
    • 昼 11:30~13:30
    • 夜 17:30~22:00
  • 定休日:水曜日
  • 席数:19席(カウンター11席、テーブル8席)

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