神保町の欧風カレー「ボンディ」を訪れるのは、沢木耕太郎さんのサイン会に並んで以来、10年ぶり。丸紅ギャラリーでボッティチェリ《美しきシモネッタ》を観た帰りに寄った。中世のフィレンツェから東京へ時空の跳躍。
本店ではなく、隣の姉妹店「ボンディ 神房」。神保町駅から歩いて数分。古本街の一本路地を入ったところある隠れ家のような佇まい。
カレー屋には場違いとも思える立派な盆栽が「神房」という店名の和を際立たせる。
予想どおりの値段。ランチタイムだけ「ボンディ」のカレーを提供しているらしい。正式ん店名は「ステーキ&ワイン 神房」。
心は決めている。チキンカレー一択。最初に名を連ねる「ビーフカレー」がスタンダードであることはわかっている。だが、いつも心にチンキカレー。
14時。ラストオーダー30分前。だが、16席の店内はほぼ満席。神保町の胃袋の底力を思い知る。
メニューにワインがあったので注文。グラス800円。「エルサ ビアンキ マルベック」というアルゼンチンの軽やかな赤。1000円台の格安マルベック。重たいタンニンがなく、柔らかくスムージー。『神の雫 マリアージュ』でも、和牛カレーにメッシがプロデュースするマルベックを合わせた。神崎雫は「成長のマリアージュ」と呼んでいた。
カレーの前に運ばれてきたのが、ボンディで有名な「じゃがバター」
ボンディはカレーソースにジャガイモが入っていない。カレーの具の三種の神器「玉ねぎ・ニンジン・ジャガイモ」のうち、ジャガイモ以外はミンチされてソースに入っている。ジャガイモは水分が出やすく、カレーが水っぽくなるので入れないのがボンディ流。その代わりに、茹でたジャガイモとバターを添えて提供。
ハッキリ言って、このジャガイモがカレーより美味い。絶品すぎる。ゴッホ《ジャガイモを食べる人々》のデ・グロート・ファン・ローイ家が食べていたら、涙を流しただろう。
真打のチキンカレー。一口ごとに、懐かしさと安堵が染み出す味。スパイスの過剰さはなく、出汁のように優しく、しかし芯はある。スプーンが止まらない欧風カレーの真髄。和風カレーよりも欧風カレーのほうが日本人に合う不思議。
ワインとも喧嘩せず、いい感じに酔っ払う。値段ははるが、それでも「神保町に来たらカレーを食べよう」となる。次に訪れるのは10年後かもしれない。
東京のカレーの名店
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食の憶い出を綴ったエッセイ集
月とクレープ。寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。