食いだおれ白書

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青山の天馬でカレーランチ。また、あの午後に会えたなら

天馬・青山

東京・表参道から少し歩いた先、赤レンガの壁に黒いテント屋根が映えるカレーショップがある。その名も「天馬(てんま)」。店内でゆったりと楽しむ欧風カレーの存在感は、隠れた名店の風格を湛えている。カレーパンのテイクアウトで有名だが、一度も買ったことがない。

天馬・青山

6年前まで働いていたオフィスが、この「天馬」の目の前のビル「ルネ青山」にあった。今は改装中のようで、その姿にも時の流れを感じる。

青山の天馬でカレーランチ。また、あの午後に会えたなら

ランチは天馬の隣のAVEX本社前に並ぶ屋台で買ってオフィスで食べることが多かった。そのAVEXもコロナ禍に本社を移転した。あの屋台のお兄さんたちは今どこへ車を走らせているのか。

天馬・青山たった数ヶ月だけだが、美容師が本職のライターが入社した。彼と天馬によく通った。「今日お昼どこにする?」と訊くと、彼は必ず「天馬でお願いします」と笑いながら答えた。キーマカレーがお気に入り。「またかよ」と僕も笑いながら、一緒にカレーランチを愉しんだ。隣のスギ薬局ではラモス瑠偉によく会った。

天馬・青山

2025年3月23日の日曜日。6年ぶりに天馬を訪れた。7月で東京を離れるので、あのカレーを体に刻んでおきたい。正午なので並んでいたが、待ち時間は10分もなかった。

天馬・青山

そうそう。確か、この2人席で一緒にカレーを食べた。彼はジブリ映画が好きで、久石譲の音楽を奏でたいから、独学でピアノを覚えた。好きな映画の話をこの席でよくした。彼が会社を辞め、池袋に自分の美容室をオープンしてからも毎月のように髪を切ってもらった。今はオンラインの美容の仕事をしている。腰痛がひどい立ち仕事の美容師より儲けも健康にも良いらしい。

天馬・青山

彼がキーマカレー好きだったのは覚えているのに、自分が好きだったメニューは覚えていない。とりありえず、ビーフカレーとエビカレーのハーフ&ハーフを注文。

天馬・青山

デザートセット480円を追加し、マンゴーラッシーとショコラ、アイスもお供に。

天馬・青山

運ばれてきた白いプレートには、きっちりと成形された細長いライスが中央に。その左右を、二人の異なる個性が寄り添うように、ビーフとエビのカレーが彩っている。ガーニッシュのパセリとフライドオニオンが、さりげなくも気品を添える。全然、記憶にない。

天馬・青山

まずはビーフカレー。スプーンでルーをすくうと、ほろほろの牛肉が顔を覗かせる。
口に含むと、酸味がしっかり効いていて、ルーではなく“牛肉の物語”を食べているような主役感。深く、くどくない。青山らしいバランス。

エビカレーは衝撃的なまでにマイルド。辛さを競うカレーではなく、海老の甘みとまろやかなルーが静かに舌に広がる。甘い。優しい。でも芯がある。「マイルドヤンキー」的カレーとは違う、凛としたマイルドさ。

これこれ。これが天馬の味。飾らないのに深い。午後からの潤滑油になってくれる。

「天馬」は、ただのカレー屋さんじゃない。記憶と、音楽と、友情と、味が交差する場所。ここで過ごした時間が、自分の中でひとつの「ごちそう」になり、今も筆を走らせている。

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食の憶い出を綴ったエッセイ集

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月とクレープ。寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。