食いだおれ白書

世界を食いだおれる

きくらげたまごの唄〜町中華の宝石たち

大和で生まれ育った者からすれば東京に「町中華」は存在しない。都会に「町」は似合わない。登山で人のいない地方に行き、老夫婦がひっそりと経営する中華屋さんに入る。それこそ「町中華」である。そんな堅苦しいバイアスをほぐしてくれる本がある。

ひらがな。タイトルが平仮名。すべてをフラットにする。「町」であろうが「街」であろうが、どっちでもいい。そんな美味しさに溢れている。こだわりが虚空に消えていく。戸惑いの朝と確信の夜がある。そんな中から七色の名店を紹介する。

秀永(高田馬場

2023年4月4日、アントニオ猪木さんの引退試合の日に木須肉(ムースーロー)を求めて早稲田松竹の向かい『秀永』へ。

開店から30分待ち。常連のおじいちゃんに「凄い行列ですね」と話しかけると「美味いよ。親父さんが1人で鍋を振ってるんだ」と笑顔。こういう店は絶対に美味い。いざ、きくらげたまご。主役に加え、ニンニク、小松菜、ネギも完璧。侍ジャパンの全員野球。鞄を忘れたお客さんが戻ってきた。「うますぎて慌てたよ」に店内大爆笑。

秀永(高田馬場)の情報

餃子荘ムロ(高田馬場

4月20日高田馬場の連投。きくらげたまご求めて高田馬場『餃子荘ムロ』へ。ぷるんぷるんの木耳とパリパリの卵焼きの五目焼きそば、注文してから皮と餡を混ぜる餃子。

壁にある長嶋茂雄さんのサイン。巨人が弱いと景気が悪い!とご主人。店内は大盛況。ニンニク餃子を2つサービスしてくれた。家庭料理より家庭的な手作りの味。

餃子荘ムロ(高田馬場)の情報

岐阜屋(新宿)

4月25日、尾崎豊の命日。巨人の2軍戦を観に川崎のジャイアンツ球場へ向かう。その前の朝ごはんに新宿の岐阜屋へ。今ではプロの料理人もおすすめに挙げる店になり、有名店。

新宿の夜を見守る思い出横丁の『岐阜屋』で「きくらげたまご」と「チャーハン」の朝食。ファストフードのようにサッと出てくるのに味わい深い。これがお店の歴史。岐阜屋は時間を味わう店。

岐阜屋(新宿)の情報

  • 問い合わせ: 03-3342-6858(予約不可)
  • 住所:東京都新宿区西新宿1-2-1
  • 最寄り駅:新宿駅
  • 営業日:不定
  • 営業時間:月・火・水・日(9:00 - 01:00)木・金・土(9:00 - 02:00)
  • 定休日:なし
  • 食べログ岐阜屋 (ギフヤ)

桂林(錦糸町

行列のできるお店は美味しくない。窮屈だからだ。時間や空間によっても味は変わる。時空が最大の調味料なのだ。その考えをほぐしてくれる。どしゃぶりの錦糸町、大行列の『桂林』。名物の海老チャーハンは断腸し、きくらげたまご&桂林ラーメン。ごはんに乗せたくなる濃厚な旨味の餡、木耳、玉子、豚肉の三重奏、DJのさやえんどう。小さな一皿がダンスホールに変わる。ラーメンをスープ代わりにしてしまう、きくらげたまごの宇宙を堪能した。

桂林(錦糸町)の情報

なかじま(渋谷)

5月10日、12時40分、店に立つ。高田馬場にある会社を出て山手線で渋谷駅へ。ドアトゥドアで40分ほど。

本に書いてある雰囲気とは真逆。若いアルバイト3人が威勢のいい声で出迎える。渋谷の喧騒そのもの。カウンターにご主人らしきひとはいない。全部で6人。他のスタッフに任せているようだ。お店の顔はひとつではない。来るタイミングによって色んな表情に変わる。

食券機で買う町中華なんてない。やはり街中華。五目炒飯を付き人に。すぐにテーブル席に座れたが、後ろには行列。外で待たさせる。天井が高い。二階建ての店だろう。これだけ流行っていたら増築するかもしれない。渋谷の喧騒を凝縮した若い活気。オイスターの餡、木耳、溶けそうな玉子、シャキシャキのニラと玉ねぎが四角いジャングルでロイヤルランブル。崇高な聖戦。付き人の五目炒飯に乗せると食べ慣れた味が宮廷料理に。「ラストエンペラーの炒飯」と名付けたい。

なかじま(渋谷)の情報

  • 問い合わせ:03-5774-1601(予約不可)
  • 住所:東京都渋谷区渋谷3-18-7 ナルセビル 1F
  • 最寄り駅:渋谷駅
  • 営業日:不定
  • 営業時間:平日(11:00 - 0:00)、土日(11:00 - 21:30)
  • 定休日:なし
  • 食べログ麺飯食堂 なかじま - 渋谷

おけ以(飯田橋

飯田橋にある餃子の店『おけ以』。ミシュランの本に紹介されてから東京で屈指の行列店になった。

一度、日曜の昼に訪ねたが、昼は「きくらげたまご」をやっていない。

代わりにラーメンと餃子を頼んだが、あまりの美味しさに驚愕した。

再び夜にリベンジ。チャーハンと、きくらげたまご。ルパンと次元。

汁気のない素朴な町中華。ラーメンと餃子の衝撃には及ばないが美味い。お店で『きくらげたまご』の本を読んでいると「その本を見て来てくれたんですね」と笑顔。

おけ以(飯田橋)の情報

生駒菜館(菊川)

東京の墨田区に菊川という下町がある。映画『めためた』が撮影された近く。strangerという、その名の通り変わった映画館がある。

映画ファンより映画関係者の中にファンが多い。俳優ARATA井浦新)さんもその一人。舞台挨拶を見て一緒に写真を撮ってもらったあと、きくらげたまごを求めた。

生駒菜館(菊川)

菊川駅、映画館のすぐ近くに生駒菜館はある。

生駒菜館(菊川)

チャーハンにたっぷりのキノコがうれしい。

生駒菜館(菊川)

きくらげたまご700円。湯気がもんもんと狼煙のように蜃気楼のよう。フーフーかめはめ波しても一向に冷めない。猫舌禁制、火力と共犯関係。お皿の海で泳ぐ豚肉と玉ねぎの旋律が優雅。

兆徳(本駒込

5月11日、有給をとって上野にマティス展を観に行く。その前の腹ごしらえに、きくらげたまご。駒込駅から都道445号線を猪突猛進。地図アプリでは30分とある。半分くらいで行けるだろう。3回も信号に捕まったが12時20分到着。横断歩道の向こうに行列ができている。雲のむこう、約束の場所「兆徳」があった。ミサに並ぶ行列は20人ほど。

40分待って入店。玉子チャーハン、1600円。グルメでも美食家でもない。食いしん坊。

店内は360度どこを切り取っても町中華。懐かしい麦茶。田舎の味だ。

40分並んだ本駒込の『兆徳』。リコピン大魔王にとって、これ以上の「きくらげたまご」は存在しない『家族ゲーム』の脚本を読んだ松田優作は「足が5センチ浮いた」と絶賛したが、この玉子とトマトの浮遊力も驚異。一皿の雲海、東京の空中庭園、兆徳。並んででもまた来たい。雲のむこう、約束の場所

兆徳(本駒込)の情報

  • 問い合わせ:03-5684-5650(6名から予約OK)
  • 住所:東京都文京区向丘1-10-5
  • 最寄り駅:本駒込駅
  • 営業日:火曜から日曜
  • 営業時間:火・水・木・金(11:30 - 14:30、17:30 - 23:00)、土・日・祝日(11:30 - 14:30、17:30 - 22:00)
  • 定休日:月曜日
  • 食べログ中華 兆徳 - 本駒込