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食いだおれ白書

世界を食いだおれる

新世界〜通天閣の夜光

新世界は夜の街。欲望の象徴に溢れかえり、本能の解放が渦巻いている。前回2泊した6月は運悪く通天閣が工事中でライトアップを見られなかった。そのリベンジ。11月30日に新世界を訪れた。

喫茶ブラザー

深夜バスで難波に到着し、朝ラーメンを食べたあと歩いて新世界に移動。久しぶりに見る通天閣。昼間では違いがわからない。ホテルのチェックインは16時。映画を観るが上映が12寺45分からなので1時間ある。

昼ご飯は抜くつもりだったが、夏に朝のレモンスカッシュを飲んだ『喫茶ブラザー』の前を通る。通天閣本通りにあり、9〜12時までモーニングをやっている。なんと広角打法。店内は群馬から来た修学旅行生とお姉さんが楽しそうに話している。阪神の優勝パレードは凄い混雑だったらしい。

トースト、ゆで卵、珈琲で500円。新宿から来たと言うと、先日、東京のテレビで純喫茶の特集をされたらしい。関西では放送がないらしく中身は知らないとか。コロナでかなりの喫茶店が潰れたが、万博まで頑張るとのこと。

通天閣(真昼)

快晴、日差しが強くなってきた。麗しい通天閣。夜も楽しみだが日中も楽しませてくれる。東京タワーよりスカイツリーに近い。偉大な先輩タワー。

朝、昼、夜。すべてを楽しませてくれる通天閣。3代目はどうなるのか。

映画の上映が迫っていたが、髪を切った。通天閣本通りにある散髪屋。「旅に出たら床屋へ行け」は水曜どうでしょうのアフリカ編で生まれた旅の掟。サッパリして映画館に向かう。

国際地下劇場

散髪が10分ほどで済んだので国際地下劇場を看板を見にくる。手描きの看板は昭和の遺産。まだ継続しているところがすごい。いつ描いてるのだろう?いつか作業をしているところを取材したい。

新世界国際ではリチャード・リンクレーターの上映。観たい作品だが今回は70年代を味わいにきた。我慢して東映のヤクザ映画へ。

新世界東映

これこれこれ。昭和にタイムリープしてくれる新世界東映。映画館は巨大なタイムマシン。新世界東映通天閣の真下にある昭和30年から続く老舗。背後でカタカタと映写機の音が聴こえ、フィルム交換で映画が数分止まる。客はずっと寝てるおっちゃんの2人。運よく上映の2本は70年代。

温泉こんにゃく芸者(70年)
まむしの兄弟 恐喝三億円(73年)

バカバカしいエロコメディだが、風情がある。アメリカン・ニューシネマ全盛の時代に東映も負けていない弾けっぷり。『温泉こんにゃく芸者』は風景に色気がある。情緒がある。ピンキー・バイオレンスという失われし郷愁。

そして何といっても『まむしの兄弟 恐喝三億円』。300万円の小切手を持って福原のトルコ風呂に向かう豪楽さ。10人の女を抱いて一晩で使い切る。昭和に似合う豪遊。そして、菅原文太の関西弁が素晴らしすぎる。これまで関西人を演じてきた数々の俳優の関西弁は違和感しかなかったが、菅原文太は何なら本物の神戸人より神戸を感じさせてくれる。これが演技。演技とモノマネの違い。映画で現地の方言を使うかは、料理で『きりたんぽ』に秋田の米や比内地鶏を使うか、東京の食材を使うかのようなもの。同じメニューでも味わいは大きく変わる。

新世界東映は2年後、完全に密着して取材させてもらいたい。

東横INN

一宿のお世話になる東横INN。ロビーで機械でチェックイン。ソーシャルディスタンスは生きている。しかし、整備され見事なサービス。

部屋も素晴らしい。個人の民宿が好きだが、サービスが行き届いた宿は心地がいい。菅原文太東映の映画を見てしまうと悶々とする。

新世界は究極の夜の街。串カツは男根であり、たこ焼きは金的。射的は射精であり、そそり立つ通天閣の真下にはエロ映画館が2つもある。その欲望の捌け口として飛田遊郭がある。

今里焼きそば

遊郭のからの帰路、時刻は17時40分。ジャンジャン横丁のはしの方にある『極食堂』に目が留まる。今里焼きそば?初めて聞く。しかし店が18時まで。2階に上がり食べられるか聞くと「いいよ」とおっちゃん。今里焼きそば700円に300円で定食付きに。ご飯、キムチ、漬物、冷奴、味噌汁がつく。

今里焼きそばは昭和24年頃のご当地メシ。そもそも今里を知ってる人なんて関西人でも珍しい。中学高校が上本町だったので毎日、近鉄電車で通過していたが訪れたことはない。極太麺、牛肉、玉ねぎ、ウスターソースを3周する。どれも主役でバランスが闘魂三銃士。「焼きそばは今里に限る」という落語を作ってほしい。金髪、鼻ピアスの若いお姉さんが「会計一千万円で〜す」という昭和ギャグ。ちょうど渡すと「一千万円お預かりしました〜」。他の人がやると寒いが、ギャップ萌えでジワってくる。

千成屋珈琲

ホテルに戻る途中、19時で閉まる千成屋珈琲。昭和23年創業。ミックスジュース発祥の店。新世界発祥とは知らなかった。昭和35年果物店から喫茶店に。学生の頃は夏の暑い日に学校から帰ると母親がミックスジュースを作ってくれた。この清涼を超えるものには出逢っていない。

750円の一杯。夏よりも美味しく感じられる。時間を凍らせる。

たこやき壱番

ホテルに戻ったが小腹が空いてきた。ホテルを出てすぐに右を向くと『たこやき壱番』の屋台。素焼き6個で600円。会津屋を食べ慣れているから期待していなかったが衝撃。熱々の温度を完璧に閉じ込め、紅生姜が踊って出汁がジュワッと溢れる。串カツの街・新世界でこんな凄いタコ焼きに出逢えるとは。道頓堀が本店らしい。会津屋と勝負できる店。この世で最もチープな言葉「感動をありがとう」

通天閣(ライトアップ)

コロナが明け、工事が終わり、新世界は夜を取り戻した。通天閣に光が戻った。やはり新世界には通天閣の色が必要だ。

この光が人々を呼び込む「蜜」であり、行先を照らす街の灯。随分ケバい厚化粧なライトアップと思ったら万博を記念した特別な光とか。

大学生の頃、車での旅を終えて大和に帰るとき、高速道路から見える通天閣の光がやさしかった。あの面影が失われたと思ったが、どうやら普段は落ち着いた色らしい。次は万博のときか。それとも、もっと早く光に吸い寄せられるだろうか。