川下りや紅葉の名所である埼玉県の長瀞(ながとろ)に、昭和を真空パックしたようなラーメン屋さんがある。侍ジャパンを追いかけた電子書籍『燃月』を出版したお祝いに、大宮に住む登山の先輩がお祝いをしてくれた。今回は難産のすえに、これ以上は書くのが無理と帝王切開でリリースした本なので、出版祝いをしてくれるのが本当にうれしい。当初はイタリアンを食べてから関東屈指の重曹泉「梵の湯」につかるつもりが、12月25日のクリスマスでお店は休み。温泉に向けて車を走らせると、ラーメン屋が見えたので、ここで食事することにした。クライマーにとってはオシャレなイタリアンよりラーメンのほうがガソリンになる。
お店はコの字になったカウンターのみ。観光の閑散期なのでお客さんは男性一人。あとからサラリーマン2人が入ってきた。出張で来たようだ。国道140号線沿いで最寄駅は「皆野」。店のすぐ後ろは「美の山公園」。温泉がポコポコ湧き立つ温泉天国。観光系の仕事だろうか。ラーメン屋さんは、旅の流れ者を迎え入れてくれる包容力がある。
「北海道ラーメン」ではなく「サッポロラーメン」と看板にあるように、味噌ラーメンが中心。味噌ラーメンは昭和30年頃に札幌で誕生。単身赴任の客が「豚汁に麺を入れてほしい」と言われたことが始まりで当初は裏メニューだった。本家は味噌を全面に出さない上品な味わい。店名の「狸小路(たぬきこうじ)」は札幌市中央区にある商店街の名前。歴史は古く1871年(明治4年)からあり、1911年(明治43年)に札幌で最初の映画常設館「第一神田館」もできている。鍋を振る職人顔が真剣だったので、なぜ秩父にあるのか聞かなかったが、創業者が縁があるのだろう。
食べる前から郷愁のかおり。絶対に美味いと確信。やさしくして、仄かに味噌の風味が口いっぱいに広がる。北海道の大地のように広大な味わい、でも主張しない。この優しさ、昭和を閉じ込めた味。現在は個性を全面に出した癖の強い濃い味噌ラーメンが主流なので、昔ながらの味を食べたくても食べられなくなった。
やさしい味噌ラーメンと対照に、餃子はニラのパンチが効いている。お酢で食べると美味い。先輩はラーメンより餃子を気に入っていた。
店内はnobodyknows+『ココロオドル』やORANGE RANGE『花』などの懐メロが彩ってくれる。また来たいが、場所柄なかなか来られない。一期一杯になるかもしれない。そんな高嶺の花の味噌ラーメンである。
サッポロラーメン狸小路
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Amazon Kindle :『燃月』
エヴェレストなど食の憶い出を綴った短編集