食いだおれ白書

世界を食いだおれる。世界のグルメを紹介します。孤高のグルメです。

らーめん おちゃらん屋〜田の真ん中で出会った“青龍”の一杯

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らーめん おちゃらん屋は、ヨドバシカメラ梅田店のレストランフロアに構える、明るさと温もりを兼ね備えた一軒だ。弟とビジネスセミナーを開催する前、腹ごしらえをしようと立ち寄った。名前の由来も歴史も何もかも謎に包まれている。

ヨドバシの飲食フロアはどの店も賑やかだが、おちゃらん屋は暖簾の奥に広がる柔らかな照明と木目調の空間が印象的で、歩き疲れた身体をふっと沈めてくれるような安心感がある。気取らない雰囲気の中にも丁寧さが見える。

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店内に入ると、天井から下がる個性的な照明が目に入る。和紙を使ったような優しい灯りで、ラーメン店らしからぬ落ち着きがある。厨房はオープンになっていて、スタッフの動きが見えるのも良い。湯気と香りが漂い、「今からしっかり美味しいものを食べるんだ」という気分が自然と高まる。

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青龍ラーメンを注文した。メニューを眺めていると、モンゴル醤油という聞き慣れない言葉が目に入り、それだけで興味をそそられた。モンゴルとラーメンがどう結びつくのか、まったく想像がつかなかったが、いざ食べてみるとその答えは意外だった。

もっと豪快で荒々しい味を想像していたが、実際は驚くほどあっさりとした醤油味で、クセが少なく、すっと喉を通っていく。朝青龍の吊り落としのような力強さを期待していたが、むしろ草原を駆け抜ける風のようにじんわりと旨味が広がる。飲み込んだあとに少し残るコクが独特で、他では味わえない方向性の醤油ラーメンだと感じた。

具材も相性が良い。煮卵は黄身がとろりとしてスープの旨味を引き立て、ほうれん草はさっぱりとした青さがアクセントになる。メンマは柔らかく、チャーシューはしっとりとしていて、全体が一つのスープに溶け込んでいる。ラーメンはスープが主役と言われるが、この一杯は具材が互いの旨味を支え合い、バランスの良い一皿に仕上がっていた。

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セットで頼んだ唐揚げは、外側がパリパリで香ばしく、肉のジューシーさも十分に残っている。衣が厚すぎず、口に入れた瞬間に軽く砕ける感覚が心地よい。焼き飯はしつこさがなく、玉ねぎのシャキシャキした食感が印象に残る。油でべたついた炒飯ではなく、あっさりとしているのにしっかり美味しい「丁寧な焼き飯」だ。

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同行した弟は「お紫ラーメン」を注文。こちらは青龍とは正反対で、個性の強い一杯だ。豚骨の香りが立ち上がり、博多ラーメンのような雰囲気がある。濃厚でパンチがあるが、くどさはなく、後半まで美味しく食べられるタイプだ。

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セットで頼んだ天津飯は、あんが非常になめらかで、口の中に重たさが残らない。出汁が優しく、清流のようにさらりと流れていく。見た目はしっかりしているのに、食べると驚くほど軽い。

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おちゃらん屋はメニューが豊富で、どれを選んでも外れがなさそうだ。ラーメンの種類が多いだけでなく、チャーハン、唐揚げ、天津飯といった中華の定番まで揃っている。家族連れでも一人客でも使える店で、梅田の喧騒の中でさっと食べたい時にも、しっかり落ち着いて食べたい時にも対応できる懐の深さがある。

食べ終わって席を立つ頃には、セミナー前の緊張もどこかへ消えていた。おちゃらん屋は「ただの便利なラーメン店」に収まらず、「また寄りたい」と思わせてくれる力を持っている。梅田に来たとき、ふと体がこの店を思い出すような、そんな確かな存在感のある店だ。

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『月とクレープ。』に寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。

大阪市北加賀屋「喫茶 蘭」〜夫婦の歴史、プライスレス

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恩師が本を出した。そのブックイベントが北加賀屋であり、帰りに腹が減ったので駅前の喫茶「蘭」に入った。

蘭。名前からして古風で、花のよう。字がいい。素晴らしい字面だ。柔らかくて、誇り高い。外観はギリシャ神殿ふう。柱が二本、白く立っていて、気取ったところが大阪らしくて好きだ。

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中に入ると、昭和の劇場のような光景が広がる。高い天井にシャンデリア、壁のステンドグラスは、どこか物語の中の風景のようで、窓辺の光が赤絨毯をやわらかく撫でている。椅子の背もたれには手彫りの模様。柱の飾りはギリシャ風。

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こういう店を「趣がある」と言うのは簡単だが、そうではない。時代に流されず、誰かの手で磨かれ、整えられてきた空間。

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ランチタイム。ナポリタン500円。コーヒーをつけても750円。茹ですぎた麺に、ケチャップの甘みがまんべんなく絡まり、ピーマンが申し訳程度に緑を添える。

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これぞナポリタン。ちゃんとメニューが「イタリアン(昔のナポリタンの呼び方)」になっている。

店は年配のご夫婦が切り盛りしていて、おばあちゃんは耳が遠い。「すみませーん」と言っても気づかず、三回ほど「イタリアン」と言ってようやく通じた。そのやりとりが、なぜか心地よい。数年前に祖母を亡くした身には、あのゆっくりとした応答が、時間の奥に沈んだ優しさを掘り返してくれるようで、少し泣きそうになる。

厨房の奥から、ご主人の声が飛ぶ。「ちゃう言うてるやろ!」びっくりするほど鋭い声。でも、きっと、あれは叱ってるんじゃない。あれもまた、愛のかたちだ。夫婦というものは、他人には測れぬ言葉で生きている。罵倒に見える言葉の中に、日々の支えと祈りが潜んでいる。そう信じたい。

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ナポリタンを食べ終えて、コーヒーを飲む。苦味が、やさしい。外に出ると、午後の陽射しが白い柱を照らしていた。あの店は、きっとこのまま、ゆっくりと時代を超えていくのだろう。ゆっくりと、静かに、あたたかく。

 

  • 店名:喫茶 蘭(きっさ らん)
  • 住所:大阪府大阪市住之江区北加賀屋2-12-16
  • アクセス:大阪メトロ四つ橋線 北加賀屋駅 より徒歩1〜2分ほど(約133m)
  • 営業時間:月〜土 7:00〜18:00(※17時ごろに閉店する場合あり)
  • 定休日:日曜日
  • 支払い方法:クレジットカード・電子マネー・QR決済は利用不可(現金のみ)
  • 禁煙/喫煙:全席喫煙可
  • 駐車場:なし(近隣にコインパーキングあり)

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『月とクレープ。』に寄せられたコメント

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「花丸軒 難波・法善寺店」〜精肉直営の目利きが生んだ浪速とんこつ、24時間、道頓堀の疲れを癒す一杯

大阪・ミナミの法善寺横丁のすぐ近くに暖簾を掲げる「花丸軒 難波・法善寺店」は、精肉業をルーツに持つ株式会社アラカワフードサービスが展開するラーメン店。創業は1978年、養豚場を営んでいた家業から派生して食肉卸売業を立ち上げ、その後「ラーメン豚吉」を皮切りに飲食業へ進出した。

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同社は現在も“すべてはお客様のごちそうさんの一言のために”を掲げ、食肉のプロが選び抜いた素材を活かしたラーメンを提供し続けている。

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法善寺店は千日前商店街の一角、年季の入った外観に「しあわせラーメン」の大きな文字が掲げられ、24時間営業で道頓堀の喧騒を支えてきた。

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店内は17席とコンパクトだが、朝から深夜まで若者や観光客で賑わい、関西弁で迎えてくれるスタッフの声が温かい。非日常感の漂う一杯は、法善寺横丁の風情とともに観光客にも地元客にも愛されている。

しあわせラーメン

看板メニューの「しあわせラーメン」は、豚骨を12時間以上じっくり煮込んだスープに小豆島産の熟成醤油ダレを合わせた浪速スタイルの豚骨醤油。席に腰を下ろすと、店主が「おひとりさん?」と声をかけてくれる。その関西弁の柔らかさがまず一杯の味を形づくる。口に含むとやさしい豚骨の旨味が広がり、九州のようなドギツイ濃さはなく、ほんわかとした軽やかさが特徴だ。

美味しすぎない絶妙な塩梅こそが“道頓堀の味”であり、深夜バスの疲れを癒してくれる。味は季節や時間帯によっても表情を変え、昼と夜、春と秋とでまた違った印象を楽しませてくれる。

チャーシューは精肉直営ならではのこだわりで、三段バラや珍しい部位「トロコツ」を用い、トロリとほどける口どけを実現している。さらに麺大盛無料、ゆで玉子やキムチの無料サービスなど、満足感を高める工夫も人気の理由である。

また「しあわせチャンポン麺」や「トロコツ1本のせラーメン」、定食やギョーザとのセットメニューも充実しており、観光途中の腹ごしらえから深夜の締めまで幅広いシーンで利用されている。外はカリッ、中はふわっと仕上げた自慢のギョーザもお持ち帰りが可能で、花丸軒ならではの味を家庭でも楽しむことができる。

ちゃんぽん麺

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スープは白濁した豚骨に塩が鋭く効いている。レンゲを近づけた瞬間、熱気が顔を包む。ひと口。舌の上で“塩の刃”が走り抜け、次の瞬間、まろやかさがやさしく追いかけてくる。長崎のちゃんぽんではない。大阪のちゃんぽんだ。豚骨塩ラーメンと長崎ちゃんぽんの“あいの子”のような一杯。どこか荒削りで、どこか愛しい。浪速のロックバンド。

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ギョーザは小粒でサクッと軽やか。皮は薄く、噛むと香ばしい音が鳴る。中から溢れるニラとニンニクの香りが一気に立ちのぼる。おやつのようでいて、味はしっかり男前。
『男はつらいよ』に出てくる源公みたいだ。地味だけど、欠かせない。

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焼き飯はパラリと軽く、香ばしい油の香りが立つ。熱々の米粒が口の中で弾ける。ラーメンの脇にありながら、決して脇役にならない。むしろ主役を引き立てる、名バイプレイヤー。川地民夫のように、静かに映画を締める。

花丸軒の魅力は“豚肉を知り尽くした食肉卸の目利き”と“浪速の気風”が融合した一杯にある。法善寺の石畳に寄り添いながら、観光客の記憶にも、地元の人々の日常にも溶け込む存在感を放っている。

店舗情報(難波・法善寺店)

  • 店名:花丸軒 難波・法善寺店
  • 住所:〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波1-2-1
  • 電話番号:06-6213-0131
  • 営業時間:24時間営業
  • 定休日:年中無休
  • 最寄駅:大阪メトロ「なんば」駅徒歩5分
  • 席数:17席(カウンター15席、テーブル2席)
  • 禁煙・喫煙:完全禁煙
  • 駐車場:なし
  • 支払い方法:カード可・電子マネー可

主なメニュー:しあわせラーメン(700円)、しあわせチャンポン麺(850円)、しあわせいっぱいラーメン(900円)、トロコツ1本のせラーメン(900円)、シンプルラーメン(550円)、自慢のギョーザ(6個250円~)

道頓堀の名店

大阪ラーメンの顔

法善寺横丁の喫茶店

ぬくもりを感じるアイス

130円の大阪のご馳走

やさしき出汁の記憶

みっくすじゅーすのメロディ

大阪の王将中華

大阪ブラックらーめん

大阪のナポリタン

難波の立ち食いうどん

大阪のきつねうどん

昭和が香る大阪の喫茶店

浪速とんこつ

道頓堀のお好み焼き

大阪たこ焼きの元祖・頂点

世界一のピロシキ

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『月とクレープ。』に寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。

暮秋の道頓堀〜光と匂いの街を歩くクロニクル

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10月28日。暦の上では暮秋。いつ秋が来たのかもわからぬまま、夏の熱が去りきらず、朝晩の風だけが急に冷たくなった。初秋も仲秋も飛び越えて、気づけば季節は晩秋になっていた。

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午後3時。傾き始めた陽の光が、道頓堀川をゆっくりと撫でていく。水面には、雲の切れ間とビルの影がゆらゆらと映り込み、その揺らぎが、この街の呼吸のようにも見える。来年の春、小説を出す。舞台は、1970年代の道頓堀。映画館と人々の記憶が交錯する、フィルムのような物語にしたい。

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足掛け四年。街を歩き、喫茶に座り、食堂の湯気を見てきた。それでも、まだ一行も書いていない。構想は、心の中で静かに熟している。

大阪うどん いなの路

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人情コッテリ、味覚はあっさり。道頓堀に帰ってきた大阪うどん。

どう小説に登場させようか。主人公が誰かと語り合うよりも、独りでうどんをすする姿の方が似合う気がした。出汁の湯気の向こうで、物語が始まる。

千日前・丸福珈琲店

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昭和9年(1934年)の創業。戦後の道頓堀を支えてきた、珈琲の老舗。小説の中で、ここでは映画の話をしようと思う。アメリカ映画か、ヨーロッパ映画か。いや、やっぱり邦画だろう。珈琲の苦味の中に、昭和という時間が溶けている。

おかる

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道頓堀のお好み焼きといえば、やはりここ。香ばしいソースの匂いが通りに漂い、鉄板の上で踊るキャベツの音が、どこか懐かしい。11月には、また来よう。まだ道頓堀焼きそばを、食べ忘れている。

純喫茶アメリカン

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ガラスのショーケース、金色のロゴ、そして赤い絨毯。“純喫茶”という言葉がまだ生きている店だ。

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ナポリタンを前に、「映画の起源」について議論するシーンが浮かぶ。喫茶の音、皿の触れ合う音、すべてがセリフになる。

作の作

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浪花とんこつ。道頓堀の夜の湿り気に、豚骨の香りが混ざる。味噌ラーメンの湯気の向こうに、どこか物語の“裏の顔”が立ち上がる気がした。

金久右衛門 道頓堀店

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大阪ブラック。大阪ブラック。この黒いスープには、店主の人生がある。映画の登場人物に語らせるより、店主の背中をひとつ描くだけで、物語になる。

夫婦善哉

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今回は、行きそびれた夫婦善哉。11月は「栗善哉」を食べないといけない。善哉の甘さには、人生の苦味がよく合う。一椀の中に、大阪という街の優しさが詰まっている。

花丸軒

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道頓堀の真ん中で、24時間、灯りを絶やさぬ店「花丸軒」。夜でも昼でも、ラーメンの湯気が街を包む。

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看板メニュー「しあわせラーメン」が忘れられず、再び暖簾をくぐる。

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午後3時、外は観光客の波。店内は地元客と外国人が混じり合い、小さな世界の縮図のようだった。

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券売機の光を背に、注文したのは「ちゃんぽん麺」「ギョーザ」「ヤキメシ」。1400円で、黄金の三重奏だ。

ちゃんぽん麺

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スープは白濁した豚骨に塩が鋭く効いている。レンゲを近づけた瞬間、熱気が顔を包む。ひと口。舌の上で“塩の刃”が走り抜け、次の瞬間、まろやかさがやさしく追いかけてくる。長崎のちゃんぽんではない。大阪のちゃんぽんだ。豚骨塩ラーメンと長崎ちゃんぽんの“あいの子”のような一杯。どこか荒削りで、どこか愛しい。浪速のロックバンド。

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ギョーザは小粒でサクッと軽やか。皮は薄く、噛むと香ばしい音が鳴る。中から溢れるニラとニンニクの香りが一気に立ちのぼる。おやつのようでいて、味はしっかり男前。
『男はつらいよ』に出てくる源公みたいだ。地味だけど、欠かせない。

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焼き飯はパラリと軽く、香ばしい油の香りが立つ。熱々の米粒が口の中で弾ける。ラーメンの脇にありながら、決して脇役にならない。むしろ主役を引き立てる、名バイプレイヤー。川地民夫のように、静かに映画を締める。

アラビヤコーヒー

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食後、千日前の角にある「アラビヤコーヒー」へ。

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創業1951年。古い時計が止まったまま、棚の上には、昭和の埃とロマンが積み重なっている。

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今日はご主人の姿がなく、女性ふたりが店を切り盛りしていた。外国人観光客が写真を撮っては、外に消えていく。

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注文したのは、ブラジルのホットコーヒー。黒く澄んだ液面が、ランプの光を映して揺れる。一口含むと、苦味がすっと舌を抜けていく。強いのに、角がない。苦味が主役でありながら、どこか透明で、やさしい。喧騒の中で飲むには、少し静かすぎるほどの珈琲。

ホットケーキ

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続いて、ホットケーキ。二段重ねの厚みが可愛らしい。表面はサクッと香ばしく、中は空気を抱き込んだようにふわふわ。ナイフを入れると、じんわりとバターが溶けて広がる。はちみつが陽だまりのように光る。“冒険するホットケーキ”という表現が、ぴったりだ。

暮秋の道頓堀〜光と匂いの街を歩く

夕暮れの道頓堀川が流れていた。その水面を眺めながら、これから向かう大阪ドームの試合のことを思った。秋の風は少し冷たいが、心は不思議と温かかった。

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あづま食堂〜塩の一滴に宿る、雨の湯気、昭和の出汁

通天閣の膝元。雨の朝、路地の石畳がしっとりと濡れている。その一角に、白い暖簾を掲げた小さな店がある。

「あづま食堂」

昭和28年創業。七十年の時を超えて、いまも湯気の立つ台所を守っている。

入口の横には、年季の入った木札のメニュー。「玉子丼」「親子丼」「シチューうどん」。どれも短く、どれも飾らない。

店の内側に入ると、カウンターがわずか9席。女将さんが「昔はテーブルもあったんやけどねぇ」と笑う。その声に、かすかな疲れと誇りが混じっていた。磨き込まれたカウンターの木目が、何十年もの客の手を記憶している。

雨が静かにガラスを叩く音の中、名物の「シチューうどん」500円を頼む。湯気が立ちのぼり、塩の香りがふっと鼻をくすぐる。透き通る出汁。牛肉、玉ねぎ、じゃがいも。その三つだけが、器の中で寄り添うように浮かんでいる。一口すすれば、驚くほどの優しさ。日本でいちばんあっさりして、日本でいちばん旨い。昆布でも鰹でもない。塩だけの勝負。だからこそ、麺の力強さが際立つ。牛肉の脂と、玉ねぎの甘みと、じゃがいものほろりとした舌触りが、塩の海でひとつになる。全員が主役で、全員が支え合う。“侍ジャパン”のような、完璧なチームワーク。このうどん、最強なり。

食べ終える頃、カウンターの向こうで女将さんが微笑む。

「ご飯もあるよ」

すすめられるままに、かやく御飯300円と玉子味噌汁150円を追加する。

炊き込みご飯の香りが鼻をくすぐる。薄口の出汁に染まった米粒が、柔らかく口にほどけていく。玉子の味噌汁は、雲のような口当たり。ふと、遠い昔の記憶がよみがえる。初めて来た店なのに、なぜか懐かしい。“帰ってきた”という言葉が、自然に浮かんだ。

外に出ると、雨脚が少し強まっていた。店の看板の白が、濡れた舗道に反射している。それでも心は、不思議なほど晴れていた。この一杯に出逢うために、雨は降っていたのかもしれない。

通天閣の足元に、あづま食堂という小さな奇跡がある。塩だけで世界を描くうどん屋。そこには、昭和がまだ息づいている。

あづま食堂の基本情報

  • 店名:あづま食堂(Azuma Shokudo)
  • 住所:大阪府大阪市浪速区恵美須東2丁目5-7
  • 営業時間:9:00〜15:00
  • 定休日:水曜日、および毎月10日
  • 電話番号:06-6631-4248
  • 席数:9席(カウンター席のみ)
  • 創業年:1953年(昭和28年)

道頓堀・新世界の思い出

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喫茶アドリア〜琥珀色の朝、光の濃縮と、日本橋の静けさ

日本橋の裏通りを歩いていると、瓦屋根が少し垂れた古い家並みに目が止まる。赤茶のレンガ、木の扉、そして小さく掲げられた緑の看板。

「喫茶 アドリア」。

創業は昭和53年(1978)。店名は、イタリアのアドリア海に由来するという。名付けたのはご主人のおばあ様。なぜその名にしたのか、理由はもう誰にもわからない。「知らんけど」と笑う街、大阪らしい由来だ。

外の光を背に扉を押すと、茶色い壁と、低く落ち着いた照明が、すぐに現実の輪郭をやわらげる。奥行きのある空間ではない。それでも、そこに漂う空気には、時間がゆっくりと積もっている。

壁一面の木目が静かに光を返し、天井にはシャンデリア。ミナミの街角に咲いた一輪の貴族のようだ。広いホールではなく、狭い空間に豪奢な照明を吊るす。その“光の濃縮”が、この店の美学である。

ランプのひとつひとつが琥珀色のガラスをまとい、壁にやわらかな影を落とす。その光は決してまぶしくなく、煙草の煙や、カウンターにこぼれる笑い声と同じ速度で揺れている。

モーニングは400円。トーストとゆで卵、そして珈琲。皿もカップも、どこか時代を止めたような白。トーストの表面は軽くシャクシャクと音を立て、酸味の効いた珈琲が、舌の奥で目を覚まさせる。朝は、これくらいでいい。これくらいが、いい。

まだら模様のテーブルには、何十年分もの手の跡が沈み込んでいる。その上をシャンデリアの淡い光が撫でる。新聞をめくる音、有線のクラシック。モーツァルトか、シューマンか。光までもが音楽に見えてくる。

常連たちは、静かに時間を吸うように珈琲を飲んでいる。それぞれの席に、それぞれの物語があるのだろう。店の奥では、夫婦らしき二人が控えめに言葉を交わしていた。この街の人々にとって、アドリアは“自分の時間を取り戻す場所”なのかもしれない。

珈琲とトースト、そしてゆで卵の三点。450円。それは、昭和のまま時が止まった“朝の定義”のような一皿だ。焼きたてのトーストは、外は軽くザクッと、内はふんわり。口に入れると、わずかに残る塩気とバターの香りが広がり、それを追うように、酸味の立った珈琲が舌を洗い流していく。

ゆで卵は、白くて静かだ。何も語らないが、確かな温度を持っている。ナイフもフォークもいらない、ただ、朝をまっすぐに迎えるための儀式のようなもの。

窓の外では、通勤の人々が足早に過ぎていく。だが、ここでは時間が少しだけ遅い。シャンデリアの灯りの下、その小さな朝食は、一日の「助走」のように心を静かに整えてくれる。扉を開けて外に出ると、通りの喧騒がふたたび押し寄せてくる。だが、背中に残るのは、琥珀色の灯りと、まだら模様のテーブルの手触り。

喫茶アドリア。それは、光と記憶が静かに溶け合う、ミナミの小さなオアシスだ。

喫茶アドリアの基本情報

  • 店名:喫茶 アドリア(Adria)
  • 創業年:1978年創業
  • 住所:大阪市中央区日本橋2-6-19
  • 最寄駅:近鉄日本橋駅・大阪メトロ日本橋駅から徒歩3〜5分
  • 電話番号:06-6644-4060
  • 営業時間:月〜土 07:00〜16:00
  • 定休日:日曜・祝日
  • 席数・構成:全33席(カウンター5席/テーブル28席)
  • 支払い:現金のみ(カード不可)

大阪の喫茶店

法善寺横丁の喫茶店

みっくすじゅーすのメロディ大阪のナポリタン昭和が香る大阪の喫茶店喫茶文化を守る高級カフェ喫茶オランダ高津宮の喫茶店心斎橋の喫茶店

通天閣の朝日

通天閣の顔

ミックスジュース発祥

通天閣のブラザーフッド

谷九のエルヴィス

Coffee Box「BAROQUE vol.2」〜エルヴィスが見守る珈琲の箱

谷町九丁目の交差点は、朝と夜でまったく顔を変える。通勤のざわめきが過ぎ、日が傾くころになると、街の音はゆっくりと深呼吸をはじめる。

その谷町筋沿いに、黒い看板が静かに浮かび上がる。「COFFEE BOX BAROQUE VOL.2」—白い文字が、少しだけ風に揺れている。

扉を押すと、かすかな焙煎の香りが胸の奥に沁みる。木のカウンターの奥には、エルヴィス・プレスリーのポスターが壁を覆っていた。ギブソン・スーパー400を抱え、カメラの向こうに微笑んでいる。1968年12月3日、NBC特別番組『Comeback Special』の姿だ。黒いレザーの衣装、熱を帯びたまなざし。この小さな店が、ステージを再現しているようだ。

若き日の写真、晩年のステージ姿、陶器のフィギュア。黄金のレコードがライトを反射して、壁の色を少し暖めている。

「エルヴィスがお好きなんですか?」と尋ねると、カウンターの中でカップを磨いていた女将さんが笑った。

「先代の母が大ファンで、後援会まで作ってたんですよ」。なるほど、だから店中がエルヴィスなのだ。

テーブルの上には、タイガー珈琲の古い金属缶。少し剥げたロゴが、昭和の時間を連れている。

「薫り高い珈琲」と書かれた暖簾(のれん)が店先で揺れ、カウンターの上には白いカップと金のスプーン。その輝きが、ステージのスポットライトのように眩しい。

一口すすぐ。酸味を抑えた深いコク。ブラックでも、ミルクを少し垂らしても、輪郭が崩れない。エルヴィスの声のようだ。ロックも、ブルースも、バラードも、どれも同じ魂の奥で鳴っている。珈琲が音楽のように胸に響く。

ランチに頼んだカルボナーラは、驚くほど上品だった。大阪の喫茶店といえばナポリタン(イタリアン)が定番だが、ここではクリームが静かに麺を包み、黒胡椒が雪のように散らされている。バターをたっぷり塗ったバケットと、さっぱりしたサラダが添えられ、ひと口ごとに店の空気と溶け合っていく。セットで1,500円。けっして安くはないが、値段の中に“手仕事の時間”がある。

壁際の時計には、エルヴィスがプリントされている。その下のテレビでは、ラスベガス時代のライブ映像が流れていた。1970年、『Suspicious Minds』を歌う姿。白いジャンプスーツに光が反射し、観客が総立ちになる。その熱が、遠く谷町九丁目のこの店まで届いている気がした。

この小さな「BOX」は、喫茶店というよりも、ひとつの“聖堂”のようだった。エルヴィスの記憶と珈琲の香りが交差する、静かな祈りの空間。扉の外には地下鉄の階段、通りの先には上本町の街並み。けれどこの店だけ、時間が逆流している。

カウンターに残るカップの跡を眺めながら思う。BAROQUEという名前がふさわしい。豪華でも派手でもなく、どこか哀しみを含んだ美しさ。そこに流れるのは、珈琲の香りとエルヴィスの声。それを支える人の記憶。

谷町九丁目。この街には、まだ知らない静かな名店が眠っている。

Coffee Box「BAROQUE vol.2」

それは、エルヴィスの歌が、珈琲の香りになって漂う場所だ。

店舗情報:Coffee Box「BAROQUE vol.2」

  • 店名:BAROQUE vol.2(バロック ボルツー)
  • ジャンル:喫茶店 / カフェ
  • 住所:大阪府大阪市中央区谷町9-4-5 新谷九ビル 1F
  • 最寄駅:谷町九丁目駅から徒歩約1分(駅出口すぐ)
  • 電話番号:090-5642-8454
  • 営業時間:火〜土 07:00〜22:00/日・祝 07:00〜18:00
  • 定休日:月曜日

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『月とクレープ。』に寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。