食いだおれ白書

世界を食いだおれる。世界のグルメを紹介します。孤高のグルメです。

唐安楼、大久保の片隅で、町中華ひと皿が人生を温める

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

「町中華」という言葉は都会の新宿には馴染まない。でも、唐安楼(トウアンロウ)だけは違う。JR大久保駅北口を出て、大久保通りを中野方面へ。韓国、ネパール、インド。多国籍な香りが漂う街を抜けたところ、ふいに目に入ってくるのが「唐安楼」の赤い看板だ。白いタイル張りのビルの一角。煌々と灯る看板には、中華の名物料理がずらりと並ぶ。異国の食堂を思わせる佇まいなのに、近所の人たちが日常的に通う場所でもある。派手ではない。でも、記憶に残る顔をしている。

中へ入ると、ほどよく年季の入ったテーブル、透明なビニールクロス、片隅に積まれた業務用の箱や炊飯器。飾らない、生活のにおいがする空間。厨房からは中国語が飛び交い、ご夫婦が連携して料理を作っている。温かい湯気が立ちこめるこの空間が、いつしか自分にとっての「帰る場所」になっていた。

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

上京してきた2013年、何もかもが不安だったあの頃、金も職もない自分を支えてくれたのがこの店だった。当時、定食は600円、酢豚も700円。

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

今は880円と少し値は上がったが、変わらないのは“やさしさ”だ。週替わりのランチは、夜でも注文できる。それがこの店の曖昧さであり、懐の深さでもある。

カレー

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

最初に驚いたのは、「カレー」があることだった。中華料理店なのに、まさかのカレー。でも、これが実に旨い。

にんじん、じゃがいも、鶏肉。見た目は家庭のカレー。でもひと口食べればわかる。そこには、何十年も中華の厨房に立ち続けてきたプロの技がある。素朴さの奥にじんわりと広がる深い旨味。スパイスで攻めるわけでもなく、ただただ「うまい」。どこか懐かしくて、心に沁みる。これが、唐安楼の味。

回鍋肉(ホイコーロー定食)

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華,

主菜にごはん、スープ、小鉢、デザートまでついた5つの“円”。この構成が、唐安楼の「定食」だ。シャキシャキのキャベツとピーマン、しっかりとした厚切りの豚肉。ごはんが進まないわけがない。厨房からは中国語が飛び交う。新宿という街の中で、どこか異国にトリップした気分になる。中華、韓国、ネパール料理。新宿で暮らしていると異邦人の方に支えらてばかり。客入りは少ないけど、ずっと変わらぬ味。

魯肉飯(ルーローハン)

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

台湾の郷土料理・魯肉飯(ルーローハン)も提供しているのは、さすがこの店らしい。甘辛く煮込まれた豚肉が白いご飯の上に広がり、一口ごとにほっとする。中華にありがちな強い味つけではなく、優しさが染み込んだ味。本当に台湾の街角で食べているような、素朴でやさしい一杯。

唐安楼(トウアンロウ)新宿の町中華

最も印象に残っているのが2021年3月19日。メニュー名は忘れた。時は緊急事態宣言下。唐安楼は普段は24時まで営業だったが、20時閉店。翌日に雪山に登るので、栄養つけようと唐安楼へ向かったが、19時半を回っていた。ギリギリなので急いで食べていたら、日本語が得意じゃなく普段は無口なご主人が「アワテナイデ。ユックリタベテネ」とカタコトの日本語で話しかけてくれた。デリバリーやテイクアウトもいいけど、お店で食べるのはこういう理由。このときの優しさは今も忘れない。

 

忘れられないのは、2021年3月19日の夜。あの日は緊急事態宣言中で、営業時間は20時までに短縮されていた。翌日の雪山登山を控えていて、19時半過ぎに駆け込んだ。

急いで食べていると、普段は無口な店主が、カウンター越しにカタコトの日本語で声をかけてくれた。

「アワテナイデ、ユックリタベテネ」

デリバリーもテイクアウトも便利だ。でも、店で食べるからこそ生まれる。料理だけじゃない、唐安楼の温かさは、そういうところにある。

新宿の中華料理

新宿の台湾料理

東京の中華料理

食の憶い出を綴ったエッセイ集

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月とクレープ。寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。

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