食いだおれ白書

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パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

「てっぱんのスパゲッティ」は、生麺専門店「鎌倉パスタ」が運営するブランド。熱々の鉄板で提供される「がっつり系スパゲッティ」がウリで、並盛300gのスパゲッティ。

名物「1枚ベーコンスパ」をはじめ、20種類以上の豊富なメニューが揃う。

「醤油バジル」790円

てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

2025年2月26日、水曜日。17時。4日前にオープンしたばかりの店を訪ねた。ビルの谷間を吹き抜ける風はまだ冷たく、春の訪れを待ちきれずに足早に新宿センタービルの地下へと降りる。ガラス張りの入口に、シンプルな看板。ん?パスタって鉄板で炒めるものだったか?  そんな哲学的問いが脳裏をよぎるも、今は腹が減っている。問いを解く前に、まずは食わねばならぬ。この時間の新宿は昼の喧騒が少し落ち着き、夜の狂乱にはまだ早い。そんな微妙な狭間にある。

てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

頼んだのは「醤油バジル」790円。店の看板メニュー。醤油とバジル? 場末のバーで飲むウイスキーとワインを混ぜたカクテルのような組み合わせだ。だが、意外と悪くなかったりする。5分ほどで、黒い鉄皿に盛られたパスタが運ばれてきた。バジルの緑、マッシュルームの茶、ぷりっとしたエビがアクセントになっている。麺の量は300gと書かれているが、おそらく具材込みの重さだろう。

もっちりとした麺には、鉄板で炒められた香ばしさが染み込んでいる。

ん?これは…スパゲッティなのか?

なんてこった....

屋台の焼きそばだ。いや、違う。スパゲッティのはずなのだが、味は限りなく焼きそばに近い。もっちりとした麺には、鉄板の熱がしっかりと伝わり、香ばしさが滲み込んでいる。鉄板の力とはかくも偉大なのか。焼きそばともパスタとも言い切れない。だが、それがいい。世の中、何者にもなれない奴ほど面白い。

メニューを見ると、案の定「新宿センタービルセット」というビール付きの誘惑がある。なるほど、酒とともに楽しむための料理。枠に収まらないこの料理は、パスタというより、飲むためのアテ。

店を出ると、新宿の空気が胃の奥へと沈んだ鉄板の余韻を冷まそうとしてくる。それでも、まだ残っている。しつこく、そして心地よく。

スパゲッティの概念を少しだけ揺るがす、新宿の小さな異国。「てっぱんのスパゲッティ」。覚えておこう。

「ペペロン」790円

パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店,ペペロン

朝7時半には和風のコメダ珈琲で始めるはずだった。静謐な時間のなか、珈琲とスイーツ。ゆるやかに仕事へと入っていく。はずだった。なのに、起きたのは7時過ぎ。もう終わりである。始まりをミスるとすべてが狂う。

慌てて新宿センタービルへ向かうと、東京マラソンのランナーたちがウォームアップしていた。筋肉を叩き、ストレッチし、精神を研ぎ澄ます者たち。1秒を削り出す気迫が漲っている。その横を、ひどい運動不足の男がスイーツを食べるつもりで歩いている。これが新宿の縮図。なるほど。寝坊は神様が天誅を与えたのだ。今日でない、と。

午前中の仕事を終え、SOMPO美術館で「FACE展2025」を観たあと、時計を見ると12時半。小腹どころか大腹が空いている。「てっぱんのスパゲッティ」に吸い込まれるように入店した。

パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店,ペペロン

「ペペロンチーノ」じゃなくて「ペペロン」。なぜ「チーノ」がない?切り捨てたその決断。単なる省略なのか、引き算の美学なのか、ただの独自ルールなのか。シーザーサラダとスープのセット(370円)も注文。ペペロンの油を受け止める緩衝材が必要だ。

やがて、熱々の鉄皿に乗った ペペロン が登場。期待通りの濃い味が舌を打つ。

強烈なガーリック。
強烈な塩味。
強烈な辛味。
繊細さなんてクソくらえ。それより大事なのは「勢い」。 圧倒的なファミレス感。味付け過多なジャンク感。これでいい。いや、これがいい。ほうれん草、キノコ、ベーコンの三重奏がすべて打楽器と来た。ものすごいセッションだが、見事に爆音を奏でる。

鉄板の上でスパゲッティが踊る。胃がそれを迎え入れる。フォークを動かし続ける。ペペロンチーノ、かくありき。

「サラダとスープ」370円

パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店,ペペロン

良い映画には必ず良い脇役が存在するように、強烈なペペロンを受け止める名脇役が必要だ。見た目、舌が触れた瞬間、胃袋を通ったあとまで、完全なるファミス感。ペペロンとの相性の良さは言うまでもない。午後の執筆は「ペペロン」 とともにある。

「一枚ベーコンのカルボ」1090円

パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

3月4日。新宿は昼から降り続いた雨が夜に雪へと変わった。湿ったアスファルトが白くなり、ビルの灯りを滲ませる。

こんな夜は思い出す。『秒速5センチメートル』の貴樹が、明里に会うために新宿から岩舟へと向かった日だ。あの夜も雪だった。貴樹は途中で足止めをくらい、遠くを見つめながら電車を待った。

今夜、遠出は無理。雪に閉ざされた街で、せめて近場で小さな贅沢を。そう思い、新宿センタービルの「てっぱんのスパゲッティ」に足を運んだ。ずっと気になっていた名物「1枚ベーコンスパ」。本当ならペペロンチーノに合わせたいところだが、今夜はカルボナーラの気分。

パスタの常識を鉄板が壊す!てっぱんのスパゲッティ新宿センタービル店

「一枚ベーコンのカルボ」1090円。
それにしても、「カルボナーラ」と言わずに「カルボ」と略すのは何なんだ。そもそも、略すほどの手間があるのか? 語尾を削ったところで、人生は少しも楽にはならない。まあ、いい。問題は味。

ソースは少なめ。余計なものは何もない。胡椒が強く効いている。ピリリと辛い。そう、これでいい。カルボナーラは質実剛健型のパスタ。

名物のベーコンは中世の武器かという厚み。フォークを突き刺し、引っ張り上げると、ずしりとした重量感。噛めば肉の層がじわりと滲み、脂がほろほろとほどける。ベーコンはペペロンチーノのほうが合う。だが、人生は最適解じゃないほうが面白い。

ハニーバタートースト400円

そして今夜、伏兵がいた。
この甘美を、まさか400円で迎え入れられるとは思わなかった。カリッと焼かれたバゲットの上に、バターがとろけ、じゅわりと染みた甘みが流れ出す。今日の体は、これを求めていた。

ハニートーストは昔から好きだったが、舌が、魂が歓喜する。もうひと口、もうひと口と進んでしまう。これはハニートラップ。完全に舌を寝取られた。

多くのイタリア人は言う。

「パスタはおかずで、主役はパン。最後に残ったソースにつけて食べるためにパスタはある」

そんなアホな、と思っていたが、今なら分かる。今夜、パスタは敗れた。ハニートーストが勝った。完膚なきまでに。絶望でいっぱいだった。だが、それも人生。

明日からも、秒速5センチメートルで前進していく。

たらジェーノ 990円

たらジェーノ 990円

たらこスパゲッティとジェノベーゼを掛け合わせたパスタ。その名の通り、二つの味が融合している一品。

本当はトーストも追加したかったが、今回は断念。飲食店にとってドリンクや追加メニューが注文されるほうが利益率がいいことは承知している。しかし、今はblogの読者が減って売り上げが落ちている。我慢のとき。毎回追加するのは厳しいが、次回こそは頼もう。気を取り直して「たらジェーノ」

たらジェーノ 990円

たらことジェノベーゼを掛け合わせることで、両者の個性は薄れている。その代わり、祭りの屋台で食べるようなジャンクな魅力を持つパスタに仕上がっている。これは箸で食べたいタイプのパスタ。家庭で作る味ではないが、「てっぱんのスパゲッティ」らしさをしっかり感じさせるメニュー。店の顔のひとつになっているのも納得。バジルは控えめだが、トマトがほんの少しアクセントとして良い仕事をしている。

奥の席では、専門学生か会社の同期と思われる若い男女7人が、酒を片手に盛り上がっていた。店内にはテイラー・スイフトの『You Belong With Me』が流れているが、かき消すほどの大声。音楽とパスタを愉しみたかったが、彼らは店の売上には貢献している。きっと話に夢中で味は覚えていないだろう。それでも、常連になってこの店を支えてくれたらいい。

店舗情報

  • 店名:てっぱんのスパゲッティ 新宿センタービル店
  • 住所:東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル MB1F
  • 営業時間:11:00~21:00(L.O. 20:30)
  • 定休日:年中無休(施設に準ずる)

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