
ゴッホの《ひまわり》に匹敵する花の絵画があるかもしれない。ポーラ美術館が所蔵しているオディロン・ルドンの絵。美術館に問い合わせると、新橋にあるパナソニック汐留美術館で展示されている。楽しみに向かったが、到着して愕然。なんと水曜お休み。月曜定休じゃないのか。次に来れるのは5月なのに。落武者のように駅へと戻ろうとしたとき、目の前に一軒のラーメン屋が現れた。

「シュウマイとラーメン…?」。餃子の逆張りか?台湾系の店かと思いきや、看板には「和歌山ラーメン」の文字。そして壁のメニューには「ネパールモモ(水餃子)600円」の貼り紙。店内を覗くと、女性スタッフ3人がせわしなく動いている。和歌山ラーメンを提供する店にネパール人。なんという混沌。これぞ東京だ。

券売機で食券を買おうとするも、新千円札は非対応。新橋駅の目の前という立地で、時間が止まっている。さすがネパール。和歌山ラーメン(味玉入り)+シュウマイ+ライスのセットを注文。計1,100円。
運ばれてきたのは、醤油トンコツの和歌山ラーメン。不釣り合いなナルトが、なんとも可愛らしい。花は見られなかった。でも、ナルトが咲いていた。
味は、ひと言でいえば「普通にうまい」。都会的な洗練とは無縁の、道の駅や町の食堂で出会えるような素朴な味。香辛料の香りはしないのに、不思議とカトマンドゥにいるような感覚になる。
僕をエヴェレストに連れて行ってくれた登山家が、ネパールのカトマンドゥでこよなく愛した日本食レストラン「古都」を思い出した。
ネパールに来てまで和食か、という気持ちもあったが、その人は毎晩のように「古都」に通った。「今夜はどこにしますか?」と聞くと、たいてい返ってくるのは「古都」。僕は心の中で「またか…」とつぶやきつつ、「承知しました」と微笑んだ。

最後に「古都」を訪れたのは2016年。エヴェレスト登頂に失敗し、日本に帰国する直前だった。山では毎日のように叱られたが、その夜は、エヴェレスト・ビールをお酌して労ってくださった。「グラスの持ち方が違う!」と、そこでも叱られたが、すべてが懐かしい。

ラーメンの器をカウンターに返しながら、ネパール語で「ダンネバード(ありがとう)」「ミトチャ(おいしかった)」と伝えると、3人の女性に笑顔がパッと咲いた。
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。