
ラーメン激戦区・新宿。その名は全国に轟くが、実は新宿には、うどんを愛する人だけが知る“もう一つの地図”がある。
湯気に包まれた路地裏の老舗、夜明け前から客を迎える立ち食い、そして都会の真ん中で打ち立てを味わえる讃岐チェーン。数は多くないが、一杯ごとに物語と温もりを秘めた名店ばかりだ。
新宿を訪れるなら、ラーメンだけで帰るのは惜しい。今日は、うどんの香りをたどって歩いてみよう。
煮込うどん中陣(西新宿)

都会の路地裏で出会う、昭和のぬくもりとうどんの真髄
西新宿・成子天神の脇、一人しか通れないほどの細い路地。その奥に、ぽつんと灯る提灯がある。扉を開ければ、そこは創業40年以上、地元のサラリーマンや近隣住民に愛され続けてきた「煮込うどん中陣(ちゅうじん)」。席はわずか4卓ほど。コンパクトな店内に、出汁と味噌の香りがふわりと漂う。

一番人気は、土鍋でぐつぐつと煮込まれた煮込みうどん定食(900円)。湯気の奥から立ち上る味噌の香りに誘われ、箸を入れれば、煮込まれてなお芯のある麺が顔を出す。素朴でありながら深みのある味噌のつゆは、飾り気のない甘みと塩気がじんわりと広がり、胃袋だけでなく心まで温めてくれる。

夕方以降に訪れたなら、ぜひ「なべやきうどん(1100円)」を。提供まで20分以上。ご主人が静かに鍋と向き合い、一切の無駄なく仕上げる。椎茸、筍、鶏むね肉、ナルト、ほうれん草──具材は脇役ではなく、一つひとつが物語の登場人物のように存在感を放つ。そして海老フライを頬張れば、衣の香ばしさと甘みが口いっぱいに広がり、遠い記憶がふっと蘇る。

体調がすぐれない日や、心が少し疲れているときには「しっぽくうどん(950円)」がおすすめ。カツオの香り高い濃厚な出汁に、シャキシャキのほうれん草や出汁を吸った揚げ、人参の自然な甘みが寄り添う。麺はあっさりとしつつも、出汁をしっかりと絡め、口に運ぶたびに優しい力をくれる。

がっつりとエネルギーを補給したいなら山賊煮込みうどん(1000円)。4種の味噌をブレンドした丸みのある濃厚スープに、ごろりと大きな人参、ごぼう、じゃがいも、ちくわ、ネギがたっぷり。噛むほどに素材の甘みがにじみ、まるで昭和の食卓にタイムスリップしたかのような温もりが広がる。

営業時間は平日のランチが11:00〜14:00、ディナーが17:00〜20:00。新宿駅や西新宿駅から徒歩圏という立地ながら、細い路地の奥にあるため、訪れた瞬間から別世界のよう。都会の真ん中で、昭和の香りと職人の手仕事に出会える。「中陣」は、そんな貴重な一杯を求める人にこそ訪れてほしい隠れ家的名店だ。
中陣の基本情報
- 店名:煮込うどん 中陣
- 住所:東京都新宿区西新宿8-12-7
- アクセス:東京メトロ丸ノ内線 西新宿駅 徒歩2分/都営大江戸線 都庁前駅 徒歩7分/西武新宿線 西武新宿駅 徒歩9分
- 営業時間:月〜金 11:00〜14:00/17:00〜20:00
- 定休日:土曜・日曜・祝日
- 電話番号:03-3371-8457
かめや(思い出横丁)

東京のうどんで迎える朝
昭和46年創業、上野の老舗割烹「亀屋一睡亭」を母体に持つ立ち食いそばの名店「かめや」。新宿・思い出横丁の十字路に立つこの店は、24時間営業(日曜定休)で、深夜も早朝も絶えず客が訪れる。カウンター8席のみというコンパクトさながら、戦後の屋台文化を色濃く残し、半世紀以上にわたり変わらぬ味を提供してきた。
蕎麦の印象が強い「かめや」だが、実はうどんも見逃せない。

たとえば「天ぷらうどん」。甘じょっぱい東京風のつゆが、朝のまだ眠い体を一気に目覚めさせる。関西育ちには驚くほど濃い色と味だが、その力強さが新宿の朝に似合う。天ぷらは揚げたて、つゆを吸って柔らかくなり、麺に絡むとじんわりとした旨味が広がる。
夏には「冷やしうどん」系も人気。冷水で締めた麺はキンキンに冷えてはいないが、揚げたての天ぷらや油揚げとの温冷コントラストがクセになる。具材が冷えている「冷やしきつねうどん」では、甘みの強い油揚げとネギの苦味が絶妙にマッチし、温泉卵が全体をまろやかにまとめ上げる。
新宿を訪れた朝、この一杯を啜ることは、街の歴史を丸ごと飲み込むようなもの。立ち食いならではのスピード感と、老舗ならではの温もり。朝ごはんとしての「かめやのうどん」は、忙しい一日を力強く後押ししてくれる。
かめやの店舗情報
- 店名:かめや 新宿店(思い出横丁)
- 住所:東京都新宿区西新宿1丁目2-10
- アクセス:JR新宿駅西口 徒歩3分
- 営業時間:24時間営業
- 定休日:日曜日
- 電話番号:03-3344-3820
丸亀製麺 (新宿西口)

讃岐うどんの温もりと日常
2000年創業の讃岐うどん専門チェーン「丸亀製麺」。全国どこでも安定したクオリティを誇りながら、店内製麺の“打ち立て・茹でたて・できたて”にこだわる姿勢は、新宿でも変わらない。

小滝橋通り時代から通い続けた筆者にとって、丸亀製麺は生活の一部だった。アルバイト時代の夕暮れに食べた「釜玉うどん(並)」、正社員になっても変わらず選び続けた一杯。そのコシと小麦の香りは、時を経ても揺るがない。

今では三井ビル内の店舗が通いの拠点。木の温もりあふれる店内は、落ち着きと清潔感を兼ね備え、都会の真ん中とは思えない安らぎがある。天ぷらやおむすびを自由に選べるセルフ方式も魅力。かしわ天やイカ天をお供にするのは、昔からのご褒美スタイルだ。

定番の「釜揚げうどん(並)」は370円。青ねぎ、おろし生姜、胡麻をトッピングすれば、香りと旨味が一層引き立つ。塩気が効いた出汁は、朝でも夜でもすっと身体に染み渡る。さらにサイドに「いなり握り」を添えれば、甘じょっぱさの対比が楽しめる。

うどんだけでなく、ごはん派も満足できるのが丸亀製麺の懐の深さ。「キムタク丼」こと白ごはん+明太子+温泉卵の組み合わせは、明太子の塩気と辛味、卵のまろやかさが絶妙に絡み合い、うどん出汁で〆れば一気に料亭の趣。雨の日や肌寒い日に、この温もりが心を満たしてくれる。

丸亀製麺は、気取らない日常のうどんでありながら、時に特別な思い出の味にもなる。新宿でふと立ち寄れば、きっと自分だけの“うどん物語”が始まるはずだ。
丸亀製麺の店舗情報
- 店名:丸亀製麺 新宿三井ビル店
- 住所:東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル B1F
- アクセス:JR新宿駅西口 徒歩6分/都営大江戸線 都庁前駅 徒歩1分
- 営業時間:月〜金 11:00〜22:00(L.O. 21:30)、土日祝 11:00〜20:00(L.O. 19:30)
- 定休日:無休
- 電話番号:03-5325-0519
コラム:なか卯の憶い出(はいからうどん)
朝の光は、まだほんのりと灰色を帯びている。新宿の街は半分眠っていて、半分はもう目を覚ましている。僕は自転車にまたがり、小滝橋通りを滑るように進む。ペダルを踏みながら、もうすぐ漂ってくるはずの出汁の匂いを想像する。
なか卯。僕の朝は、いつもそこから始まった。卵かけご飯と、はいからうどん。たったそれだけのことだ。でもそれは、僕にとって音楽のイントロみたいなものだった。イントロが鳴らないと、その日の曲が始まらない。
店のドアを開けると、お姉さんが目を細めて笑う。京都の太秦出身で、時代劇の廊下を子ども時代に走り回ったという人だ。彼女は外国人スタッフに関西弁を教えたり、常連の好みを観察して先回りしたりする。マニュアルには書かれていないことを、当たり前のようにやる。そういう人が、世の中にはほんの少しだけいる。
はいからうどんの湯気は、冬の朝の冷たい空気をやわらかく変える。出汁の匂いが肺の奥まで届くと、体の中の歯車が少しずつ回り始める気がする。時には、唐揚げがサービスでついてくる日もあった。そういう朝は、ちょっとだけ世界が良い場所になったように感じる。
やがて、閉店の日が来た。カウンター越しにお姉さんと目が合うと、彼女は少し泣いていた。僕は笑って、いつものように卵かけご飯と、はいからうどんを頼んだ。ゴッホの《ひまわり》とモネの《睡蓮》を同じ額縁に入れるような組み合わせだ。
「朝に出汁とったばかりなので美味しいよ」と、お姉さんは言った。僕はうなずき、湯気の向こうで小さく手を振った。そして、その日も出汁の香りを胸いっぱいに吸い込み、ペダルを踏んで新宿の街に漕ぎ出した。
冬には「けいらんうどん」という新顔もあった。親子丼の具材が、昆布出汁のうどんの上で出会う。卵のやわらかさと鶏肉の旨味が、湯気の中で互いに寄り添っていた。作ったお姉さんが「こんなに美味しそうなメニューは初めて」と、女子高生のように笑っていたのを覚えている。
夏は「山ワサビざるうどん」。冷たい麺をすすると、鼻の奥がツンとし、同時に眠気が一気に飛ぶ。山ワサビだけを箸で摘んで口に入れ、「これだけで食べられる」とお姉さんが得意そうに言った。
新宿最強グルメマップ
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新宿センタービルのグルメたち
食の憶い出を綴ったエッセイを出版しました

『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。