今週のお題「ラーメン」
俺には、卒業しなければならない“呪い”がある。
店先から漂ってくる、純粋無垢な湯気。
どこかエキゾチックで妖艶な、あの香り。
孤独な男の心と胃袋をたやすく奪い、毎年の会社の健康診断では、「再検査」という名の地獄へ送り出す。
そう、ラーメンだ。
「塩分が高すぎる」「コレステロール値が限界だ」
知ってるさ。
そりゃ、消化しきれなかった麺が血流に乗って流れてるんだろう。
でも、自業自得とは言わせない。
悪いのは……ラーメンだ。
気づけば週に4杯。
人生のあらゆるシーンを、一杯の丼に捧げてきた。
煮干、鶏白湯、信州味噌。どれも抗えぬ魅力を放っている。
だが、最終的に心を攫っていくのは、やはり、醤油。
何度、他のスープに心が傾いても、最後の指先が動かない。
醤油ラーメンは、魔女だ。そう、魔女なのだ。
佐野や喜多方のあっさりお嬢様も捨てがたいが、背脂が浮かぶ漆黒のスープ、ドカンと構えた焼豚のグラマラスな存在感……
ラーメンは、峰不二子と見つけたり。
店主が途方もない仕込みを経て生み出した、完璧な“スープの美しい沼”。
そこにレンゲなど似合わない。
武士は黙って、箸一本で挑む。真剣勝負だ。
なぜ味玉をプラスするか?それは美女の耳元を飾るジュエリーのようなもの。
プラス100円の誘惑に、武士は財布を斬られる。
最後にスープを飲み干し、どんぶりをドン!と置くときの恍惚たるや。
そして、空っぽになった丼の虚無。果てしない孤独に再び戻る瞬間。
競馬場で全財産を失い、全レースが終わった16時の斜陽を見るときの滅びの予感。
絶望。俺には絶望しかない。自殺したくなる。だが、その絶望感に打ち勝ち、来週も競馬場に来ると決めたとき、俺はまた強くなれる。
ラーメンの空っぽの丼は競馬のあとの俺の財布。
……いかん。
また沼にハマってしまう。
今こそ、このブラックホールから抜け出す“バニッシング・ポイント”、卒業式の時だろ。
場所はどこにする?代々木の鷹の爪か。銀座の篝か。早稲田の巖哲か。
……いや、まずは明日。
新宿の麺屋武蔵で、じっくり考えるとしよう。

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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。