
令和7年1月19日、日曜日。夜の帳が下りる18時。
新宿の雑踏を抜け、暗い路地を抜け、ビルの影に身を寄せ、「らぁめん 満来」の暖簾をくぐる。6年間続けた文章教室を卒業した夜。筆を置き、新たな人生の扉を開ける節目に、ソウルメイトと肩を並べて座った。

「らぁめん 満来」は1961年創業の老舗。 新宿駅西口から徒歩5分、小田急ハルクの向かいの路地裏にある。カウンターのみ15席で、年中無休で営業している。 支払いは現金のみ。コロナ禍でも負けずに営業しており、文章教室の先生とも食べに来た記憶がある。
カウンター越しに響く寸胴の音、湯気の向こうの職人の動き。券売機で「らあめん」1300円を注文した。ソウルメイトは「納豆ざる」1450円。
でかい。シンプルにして重厚なるたたずまい。黄金色のスープの上に、太く縮れた麺、分厚いチャーシュー、青々としたほうれん草、そして柔らかいメンマが、そこに在るべくして在る。
そっと口に運ぶ。じんわりと広がる、丸みのある醤油の香り。佐野ラーメンのように、過度な主張はない。その奥には積み重ねられた時間が宿る。これまでの6年間の歩みを映し出すかのように。
中太の縮れ麺を持ち上げると、しっかりとスープをまとっている。啜れば、小麦の甘さと出汁の深みが一体となり、舌の上でほどける。柔らかいメンマの歯ごたえ、分厚くもほろりと崩れるチャーシュー。そして、ほうれん草の青さが、口の中にさっぱりとした余韻を残す。
隣のソウルメイトも無言だった。ただ、丼を傾け、スープを飲み干す音が心地よく響く。言葉はいらなかった。長い時間を共にした者同士、共有するものは、もう言葉ではなく、ただここにある一杯。

最後の一滴までスープを飲み干し、丼を置く。満たされた。腹だけじゃない、なにか、もっとこう、人生の隙間に入り込んでいた「なにか」が、じんわりと埋まった。
店の外には新宿の夜が広がっていた。一杯のラーメンが、新たな旅立ちの幕開けを静かに祝福していた。次に来るときは独り。「納豆ざる」を注文しよう。
「納豆ざる」1450円

あと5ヶ月で東京を離れる。そう決まったとき、大都会にさよならを言う前に、できるだけ多くのラーメンを腹にぶち込みたい。東京には、数えきれないほどのラーメンがある。最初に訪れたのが、新宿「らぁめん 満来」。長い暖簾をくぐり、木の香り漂うカウンターに腰を下ろす。昼休憩のサラリーマンでいっぱいだが、3席だけ空いていた。
頼んだのは「納豆ざる」。聞いたこともないが、面白そうじゃないか。納豆とラーメンの組み合わせに、ほんの少しの冒険心と好奇心を携えつつ、つけ汁のどんぶりを見る。泡立っている。黄色い。やけに黄色い。そして納豆がぷかぷかと浮いている。光沢のある中太麺の上には、細く切られた海苔が無造作に散らばり、横には黄金色に泡立ったつけ汁。中には納豆の粒、刻みネギ、メンマ、そして豚の角煮。
箸で麺をひとつまみ取り、迷うことなくつけ汁に沈める。
うまい。いや、うまいどころではない。これは納豆と麺のために生まれた世界だ。
余計なものはいらない。他の具材はただの背景になり、主役は納豆と麺のランデブー。納豆のコク、独特の粘り、そしてつけ汁のまろやかな塩気が麺に完璧に絡みつく。唐辛子のスパイスが効いて、箸が止まらない。

空になった丼、わずかに残る唐辛子をじっと見る。あと5ヶ月で東京を去る。その間に、どれほどのラーメンと出会えるか。しかし、この納豆ざるの記憶は、いつか遠くの街で腹を空かせたとき、きっと蘇るだろう。
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
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過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。