食いだおれ白書

世界を食いだおれる。世界のグルメを紹介します。孤高のグルメです。

江南ラーメン〜新宿・百人町、深夜3時の梁山泊

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

新宿の西端、百人町。喧騒がすっと引くあたり。横尾忠則が描くY字路のような小滝橋交差点に、地元民から愛される街中華がある。赤い看板、赤い提灯。夜の空気に、ふっと浮かんで見える「江南ラーメン」

営業は18時から深夜3時。日付が変わっても営業中の店は珍しくないが、朝を迎える前に閉じてしまうあたりに、この店のリアリティがある。山手線も西武線も東西線も動いていない。ここに来るのは夜の街に生きる人たち。水商売、医療関係、深夜の現場を終えた近所の人たち。身体に残った熱や疲れを、この一軒でほぐして帰る。

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

2年前まで、江南ラーメンから徒歩3分のオフィスでライター・編集者として働いていた。まだ昼営業があり、ランチメニューもあった時代。厨房では、中国人の夫婦の明るい笑顔、手際よく中華鍋を振る姿があった。3年ぶりの訪問は、接骨院の先生と。ボクシングの試合を一緒に観たあと、「コーナンに行きましょう」と誘ってもらった。23時までの診療が終わったあと、家に帰る道すがら、よく寄るらしい。

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

まずは、青りんごサワーで乾杯。カウンターに肘をつくと、厨房の鍋が鳴る。火の音、油の跳ねる音、食材のぶつかる音。それらが一瞬にして混ざり合い、料理が仕上がる。驚くほど早く料理が来る。ファストフード店より早い。思い出横丁の「岐阜屋」と並ぶ、新宿の“早くて旨い”の代表格。

カレー炒飯

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

接骨院の先生のおすすめは「カレー炒飯」。米は超しっとり、パラパラとは違う、熱を含んだ柔らかさがある。カレー粉は控えめに見えるが、味の核になっていて、一口ごとに奥行きがある。遠いガンダーラへ向かう、味のシルクロード。懐かしいが繊細。先生が惚れるのも無理はない。

餃子

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

定番にして主役の餃子。ニラは控えめ。角の取れた味わい。鋭くも丸く、子どもが大好きな味。店主も子どもが大好きに違いない。昔も、未来のこれからも愛される。悠久の梁山泊。

バンバンジー

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

追加でバンバンジー。鶏のしっとりとした身に、胡麻ダレが優しくかかっている。きゅうりと白髪ねぎが、小さな起伏を与える。

レモンサワー

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

レモンサワーを一杯。ここで満腹だったが、そこから一品を頼むのが、極真空手の「あと一歩」。限界の先を、もう一度だけ踏み出す。僕も、先生も、かつて極真空手の道場に通っていた。引退しても、極真魂は生きている。

麻婆豆腐

江南ラーメン 新宿・百人町の灯り

アンコールは、麻婆豆腐。まったく辛くない。待ってました。こういう味。辛さで誤魔化さない。旨味で勝負。豆腐は柔らかく、挽肉と柔らかく調和している。決して派手ではないが、静かに深く響く料理。

江南ラーメンは新宿・百人町の灯り。これからも愛される。そういえば、店名の「ラーメン」を頼んでいない。この街を離れる前に、もう一度、来よう。

らーめんライス

ラーメン+ライス

2025年7月23日(水)、落合にある接骨院で最後の施術を受けた。3年間お世話になり、一緒に広島に行ったり、ボクシングを観戦したり、どれもが思い出深い時間だった。ふと江南ラーメンを食べていないことを憶い出した。

落合の静かな街角に佇む「江南ラーメン」。赤提灯に照らされる外観は、懐かしく、相変わらず時間がゆっくりと流れている。

店内には、関西弁で談笑する年配の男女が3人。次々とお酒を頼み、夜のひとときを楽しんでいる。だが、今夜は酒ではない。注文するのは、らーめんライス。ラーメン730円、ライス200円。千円以内に抑える。

麺はおそらく既製品だろう。だが、チャーシューとほうれん草の質の高さに驚かされる。単品でも提供されているだけあって、素材へのこだわりが伝わってくる。そして、ライスとの相性が抜群。平凡なようでいて、組み合わせた瞬間に化学反応が起きる。スープをまとった白米が、別の料理に生まれ変わる感動がある。

家庭的でありながら芳醇。何気ない日常の締めくくりに、これ以上ふさわしい一杯はない。ま「らーめんライス暫定日本一」と呼ぶにふさわしい逸品だった。

別れの夜、東京がそっと背中を押してくれたような気がした。

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