
2025年2月18日、火曜日、朝8時。名古屋・栄。夜行バスを降りた街は冷えきっていたが、光はもう春のそれだった。空はどこまでも澄んでいた。仕事に向かう人の顔はまだ半分寝ぼけている。いよいよ街が動き出す。

「コメダ珈琲 テレピア店」に向かう。大きなロゴマークの下に、レトロな書体の店名が刻まれている。「コメダ」は1968年、創業者の加藤太郎が名古屋市西区に開いた喫茶店が始まりだった。名は、家業であった米屋「コメ屋の太郎」に由来する。創業から半世紀以上、名古屋の喫茶文化を象徴する存在となり、今や全国に1000店舗以上を構える怪物チェーンに変貌した。
初めてこの店を訪れたのは昨年の11月10日。野球の国際大会「プレミア12」の強化試合、日本対チェコ戦を観戦した翌朝だった。奈良の実家に帰る前、愛知県美術館に寄る前、名古屋らしい朝を過ごそうと立ち寄った。

頼んだのは、小倉トーストとコメダブレンドのセット。540円。
小倉トーストは、かつて栄にあった喫茶店「満つ葉」が発祥とされる名古屋の朝の顔。トーストの上に、たっぷりと鎮座した小倉餡。
初めて食った瞬間、頭がクラクラした。強烈な甘さ。強烈な美味。覚醒剤でも入ってるんじゃないか。病みつきになる。これはもう食い物じゃない、武器だ。兵器だ。これだけの甘さをぶち込まれたら、たまったもんじゃない。
この街の人間は、朝からこれを食って生きているのか。まったく、いいところじゃないか。
武器としての小倉トースト、名古屋の朝は戦場だ。

そして今日、二度目の朝。扉を開けると、すでに数組の客がコーヒーを飲んでいた。
窓際の席に座り、ローブパンに小倉餡を添えたセットを頼む。
デニッシュ生地のパンはバターの香りが豊かで、そのままでも美味しいが、小倉餡を乗せると一気に豹変。口の中に広がる暴力的な甘さ。それを苦いコメダブレンドの珈琲で流し込む。甘さと苦さの殴り合い。最高だ。『地獄の黙示録』で言うところの、朝のナパーム弾だ。
朝の光が、店の窓から差し込んでいる。旅先で味わう食事は、その街の空気と時間、そして記憶の一部となる。やがてカップの底が見えた。そろそろ行こう。
美術館の扉が開く。そこではパウル・クレーの世界が待っている。コーヒーの余韻を残したまま、静かな名古屋の朝を歩いていく。
名古屋の喫茶店
小牧市のカフェ
食の憶い出を綴ったエッセイを出版しました!

『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。