
2025年2月14日(黄金)、バレンタインデー。
人生の師匠と錦糸町のドトールでクリムトについて語り合った。クリムトの黄金とはなにか?女か?芸術か?とても有意義な時間だった。やはり師匠はすごい。ありえない発想の技を仕掛けてくる。早く追いつかねば。
今朝、朝シャワーの時間がなかったので「黄金湯」へ向かう道すがら、ふと目に入った「北海道らーめん ひむろ」に吸い込まれた。白地に黒文字、赤い鷹のシルエット。

胃が鳴った。どうにも腹が減った。早く身体を洗いたいが、腹が減っては湯につかれぬ。
時刻は正午。すぐ駅前という場所柄、店内は満席。作業着の土木作業員、スーツ姿のサラリーマン、年配の夫婦、近所の常連らしきおじさん。さまざまな人々が、狭いカウンターで肩を寄せ合うように麺を啜っている。
店員さんは屈強でイカつい。いかにも頑固そうな職人顔だが、接客は丁寧。背後では大塚愛の『さくらんぼ』が流れ、ラーメンをすする音と混ざり合う。泥臭いラーメン屋と全く噛み合わない猫なで声がいい。10年後も愛される曲だ。

「味噌オロチョンらーめん」を注文。930円。数十種類のスパイスをブランドした味噌ダレの合わせ技一本。自家製餃子300円も頼みたかったが、これ以上、堕ちるのはやめよう。
やがて目の前に現れたのは、朱色に染まったスープにたっぷりのもやしとネギ。きくらげが黒い点を打ち、細く縮れた麺がスープの海に浮かんでいる。
少し辛い。味噌のコクが舌を包み、じわりと辛さが追いかけてくる。そこまで攻撃的じゃない。。細い縮れ麺を箸で持ち上げ、口へ運ぶ。ズルズルと音を立てて啜る。喉を抜ける感触がいい。
隣の作業着の男と目が合った。お互い、無言で麺をすする。
「東京で最も札幌に近いラーメン」と謳っているが、東京のラーメンには東京の泥が混じる。ラーメンは不思議なもので、多くの調味料をブランドするほど一つの味に向かっていく。札幌で味噌ラーメンを何度か食べたが、これは東京の味だ。東京の冬の味だ。日本一の人口密度に揉まれながら、北海道ラーメンは東京の味になっていく。
外はまだ冷え込んでいるが、腹の中は燃えていた。クリムトの黄金とは違うが、ここにも確かに熱を帯びた色がある。
黄金湯まで歩こう。
錦糸町のラーメン
北海道の味噌ラーメン
東京のおすすめラーメン
記憶を超えた一杯
鶏白湯のモンスター
ノスタルジーのゆくえ
ミシュラン三ツ星の鶏白湯
日本一の味噌ラーメン
食の憶い出を綴ったエッセイを出版しました!

『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。