食いだおれ白書

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荻窪「春木屋」〜ラーメン・エルドラドの中心で、歴史をすする

春木屋・荻窪・らーめん

新宿よりも飲食店が所狭しと並び、「ラーメン・エルドラド」と呼ばれる荻窪。その中でも最も有名なラーメン屋が「春木屋」である。

創業は昭和24年(1949年)。戦後、和風出汁を効かせたスープや、スープによく絡む縮れ麺が登場し、ネギ、海苔、ナルトといった具材を乗せるスタイルが確立。いわゆる“東京ラーメン”の原型を作った老舗のひとつ。

春木屋・荻窪・らーめん

開業当初は屋台だったが、ラーメンはなかなか売れず、夜は飲み屋として営業し、何とか日々をつないでいた。しかし、次第に評判を呼び、行列ができる店へと成長していく。

スープは煮干し、削り節、野菜、鶏ガラを独自にブレンドした醤油味。中太の手揉み縮れ麺は、夏と冬で太さを変えるというこだわり。小麦は荻窪(武蔵野)産を中心に複数種類を使い分け、仕込みは毎朝6時から始まる。ラーメン1杯が30円の時代に、春木屋は35円。それでも人々は並んだ。

活弁士の徳川夢声や、映画監督の山本嘉次郎など、多くの文化人にも愛された。春木屋が追い求めるのは「変わらない味」ではなく、「変わらず美味い味」。お客に気づかれないほどの小さな進化を積み重ねることで、はじめて「変わらない」と言われる。

春木屋・荻窪・らーめん

東京を離れる最後の日、アパートの引き渡しを終え、荻窪駅に着いたのは午後2時。北口の駅前通商店街を3分ほど歩くと、春木屋が見えてきた。

春木屋・荻窪・らーめん

老舗には珍しく、券売機はオールキャッシュレス。一番人気の「わんたん麺」1350円に、味玉180円をトッピング。

春木屋・荻窪・らーめん

昼のピークを過ぎた店内には、カウンターに2席の空きがあった。店主らしき年配の男性と、アジア系の若い男女が2人。接客を担当しているようだ。店主はスタッフと和やかに会話し、丁寧に客を迎えていた。その様子からも、「ラーメンは人柄が出汁」という言葉がふと頭をよぎる。

春木屋・荻窪・らーめん

運ばれてきたラーメンには、珍しく味玉がスープに沈まず、別皿で提供されていた。そこに何か意味があるのだろうかと考えつつ、まずはスープをひと口。

春木屋・荻窪・らーめん

ラーメンの癖は一切なく、脂が上品。ほのかに和風の香りが漂い、少し甘味を感じさせる。中華料理屋のチャーハンについてくるチャーハンより美味しいスープを飲んでいる感覚。メンマが最も味が強く、麺もチャーシューもワンタンも驚くほど淡い。

創業70年を超える歴史の重みはなく、脱サラした新進気鋭の若手が作ったようなフレッシュさ。猛暑に合わせてアッサリに調整しているのかもしれない。

東京を離れる最後に、ラーメンというものを教わった気がする。

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