食いだおれ白書

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新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

岐阜屋・新宿・思い出横丁

新宿西口の雑踏、昭和のぬくもりをそのままに残す「思い出横丁」。戦後の闇市がルーツにあるディープな飲食街。そんな路地の中ほど、朝9時から暖簾を掲げる名物中華食堂が「岐阜屋」である。

新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

創業は昭和22年(1947年)。戦後の闇市から発展した一角で、屋台として始まった。岐阜出身の店主が立ち上げたことが、店名の由来。時代が移り、ビルが建ち、ネオンが灯るようになっても、「岐阜屋」の味とたたずまいはほとんど変わっていない。

新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

店内はいつも満席に近く、サラリーマン、地元民、外国人観光客が肩を寄せ合いながら、それぞれの“岐阜屋時間”を過ごしている。岐阜屋は、新宿という街の懐の深さをそのまま体現している店である。

岐阜屋・新宿・思い出横丁

新宿に10年近く住んでいながら、岐阜屋の名前を知らなかった。最初に訪れたのは上京して8年も経った2020年4月8日。世の中は初めて経験する緊急事態宣言に震えていた。飲食店は軒並み休業。そんなとき、文章を教わっていた先生からメッセンジャーが届いた。

「新宿にお住まいなら、岐阜屋がおすすめですよ。もう5年くらい行っていませんが、絶対に開いています。何があってもやってる店です。人生捨てた人が、ひたむきに飲んでいて、やられます」

強烈な推薦状を受け取り、アパートから歩いて向かった。

ラーメン

岐阜屋・新宿・思い出横丁

店ではスーツを着たサラリーマンが「地球の重力」についての難しい話に花を咲かせている。なんだ、この店は。こだわりの自家製麺を啜る。カオスな話、カオスな味。これぞ新宿。

醤油スープに、ほんのり焦げの香る縮れ麺。メンマともやし、海苔一枚。スープを飲み干す頃には、何かが整う気がする。何とは言えないけど。

チャーハン、餃子

岐阜屋・新宿・思い出横丁

軽めの炒め具合で、ふんわりと優しい仕上がり。ネギのシャキ感がアクセントになっていて、油の重たさが不思議とない。スプーンが止まらない。

ラーメンとチャーハンを食べてもまだ腹6分目。食欲、ヤバイ。体重、ヤバイ。財布、ヤバイ。
岐阜屋は確かに、なにがあっても営業していた。新宿の夜を見守っている。無言で、でも温かく。

きくらげたまご(木耳玉子炒め)

二度目の来訪は2023年4月25日、尾崎豊の命日。巨人の2軍戦を観に、川崎のジャイアンツ球場へ向かう前の朝ごはん。時刻は9時。

「木耳玉子炒め」と「チャーハン」の朝食。

ファストフードのようにサッと出てくる。なのに、味わい深い。ぷるんと柔らかく、卵はふわふわ。優しい塩味のあんが全体を包み、しっかりとした野菜の食感とともに口の中で弾ける。ひと皿の中に、懐かしさと力強さが同居している。

これがお店の歴史。きくらげが、ふわふわしているあいだに、人生は進む。

岐阜屋は時間を味わう店。急いで食べても、どこか心が落ち着く。

もやしそば、シューマイ

新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

もう初夏なのに、夜風は骨の奥にまで冷たい。2025年5月23日、金曜、午後十時。腹が減った。夕食には遅すぎ、深夜メシには早すぎるアンニュイな時間。こういう時間帯でも、岐阜屋は受け入れてくれる。思い出横丁の入り口をくぐると、喧騒と煙、そして光の粒。予想通り満席だったが、すぐに1席空いた。

店の前では外国人の観光客たちが肩をすくめて帰っていく。はるばる日本へ。席を譲ってあげたらとも思ったが、一人分の善意ではどうにもならない。

新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

大好きな漫画『乱歩の美食』の14話で岐阜屋が出てくる。思い出横丁で飲んで、思い出横丁の岐阜屋でシメ。それが「もやしそば」

硝煙反応が出そうなくらい湯気がモクモク、熱々。新宿という街の喧噪を吸い込みながらも、驚くほど超あっさり。モチモチの麺、とにかく優しい。強烈なスパイスよりも強力な「やさしさ」という中毒性。やさしさに甘えてはいけない街だが、甘えてしまいそうになる。

新宿・思い出横丁『岐阜屋』地球の重力と、胃袋直行

遅れてシューマイが到着。五つ並んだ姿が、小さな灯籠のよう。もやしそばに輪をかけてやさしい。こっちも湯気が凄いがホクホクしながら食べる。

隣は20代後半のカップルだが常連のようで「昔のほうが良かったよ」なんて話している。それぞれの“昔”がある。それぞれの“今”がある。でも、岐阜屋がある限り、新宿は大丈夫だ。

営業:日〜木 9:00 ~ 翌 1:00、金・土 9:00 ~ 翌 2:00

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食の憶い出を綴ったエッセイ集

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月とクレープ。寄せられたコメント

美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。

過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。

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