食いだおれ白書

世界を食いだおれる。世界のグルメを紹介します。孤高のグルメです。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

日本一おいしいハンバーガー屋さんが京都にある。アメリカの濃厚民族な味ではなく、京都の侘び寂びを体現したハンバーガー。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

店の名は、「COFFEE&HAMBURGER ROND.E(ロンデ)」。白壁に黒枠の小さな建物。どこか欧州の片田舎を思わせる趣。入り口のベンチには雨を受けた鉢植えが並び、使い込まれた木の扉がゆっくりと迎え入れてくれる。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

場所は阪急・西京極駅の前。野球ファンにとっては、西京極野球場(わかさスタジアム京都)の目の前と言ったほうが馴染みある。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

平安高校の応援に来たが、雨で試合開始が2時間半遅れ。どこか時間を潰せる場所がないか地図を見るとヒット。西京極に降る雨は、ただの天気ではなかった。それは時間の流れを少しだけ緩め、思いがけない“発見”へと導くための布石だった。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

マクドナルドが日本に上陸する前から京都でハンバーガーショップを開いた「喫茶 萩」で修行したご主人が独立してオープン。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

「雨で試合が12時開始になってしまって」と話すと「今日、野球の試合あったんですか?」

灯台下暗しは、野球場あるある。球場の目の前の店ほど、野球に興味がない。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

そんなロンデは、木々の温もりがやさしく、窓の外はクスノキやモミジバフウの新緑が目を潤してくれ、フェルメールの絵画のような光が差し込む。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

チーズバーガーとコーヒーのセット980円。丹精込めて焼かれた和菓子のような、丸みを帯びたフォルム。サックサクの香ばしいバンズ、チーズはまだしも、パテ(肉)までが舌のうえで溶けていく。フェルメールが描く柔らかい光を食べるようで、サイフォン珈琲に合う。味覚ではなく、触感として「優しさ」が伝わってくる職人芸術。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

15年前に弟とニューヨークで食べた感動に肩を並べた。たまらず、ベーコンバーガーとコーラを追加。ご主人が「ごめんなさいね。足りなかったでしょ」と恐縮。「いえいえ、あまりに美味しかったので」と返す。これはコーラと相性がいい。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」

「お会計お願いします」というと、「野球の試合まだでしょ?もっと、ゆっくりしてってくださいね」とご主人。次に来るのは、7月の夏の甲子園予選。その次は9月の秋季大会。もちろん、どちらも「ロンデ」に足を運ぶ。次はエッグバーガー。

2025年9月27日(土)

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

夏に来れなかった平安高校の秋季大会を観る前、朝8時半に再訪。まだ秋らしいとは言えないが、早朝は少し暑さがマシになってきた。

朝の京都は、秋の手前で足踏みしていた。8時半、西京極の角を曲がると、白い壁と黒い縁取りの小さな店が立っている。扉は艶のある木。手を添えると、ゆっくりとこちら側へ世界が開く。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

赤いグラインダー、磨かれた長いカウンター、銅のマグ。「どこかでウチのこと聞いてくれはったんですか?」

ご主人の物腰の柔らかな声が届く。

「春に野球を観に来たとき、美味しくて。また来たんです」。店は朝の低い光に整列し、時計は9時へと針を寄せる。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

9時半のプレイボールまで1時間。外からは、平安の選手たちと思しき若い声が跳ねてくる。

前回は、チーズとベーコンから入ってしまった。定番を知らずに語るのは、どこか後ろめたい。今日は、まっすぐに「ハンバーガー」

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

青い縁取りの模様が涼しい。丸いバンズは指に軽く、歯にさくりと入り、香ばしさが静かに広がる。パテは過不足がない。噛むほどに、雨上がりの土を踏むような滋味が滲みる。京都の侘び寂びが、塩気と油のバランスに宿る。

ミレーの《落穂拾い》を思う。地面の近くで、口の中が働いている。サイフォンの珈琲が、胸の鼓動をスタンドから遠ざける。「野球が終わったら、昼にもう一度来ます」と告げると、マスターは少し笑って頷いた。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

平安高校がコールド勝ちしたので、11時半にダブルヘッダー。

「野球、早かったですね」

カウンターの上の水滴が、昼の光を一つずつ拾っている。

京都・西京極「ROND.E(ロンデ)」〜グラウンドの向こうの"和"のハンバーガー

今度はエッグバーガーのセットを頼む。気分は勝者側のベンチ。サラダを一皿、そしてハンバーガーは1.5倍に。小さな贅沢を100円ずつ重ねる。

卵はふわりと柔らかく、黄身がパテとバンズの間でゆっくりと溶け、優しさにもう一段、厚みを与える。齧るたび、店の時間がわずかに伸びる。銅のマグの冷たさ、白いカップの「RONDE」の文字、扉の向こうを自転車が過ぎ、球場の歓声が遠くなる。

ここには、アメリカの濃さはない。あるのは、京都の呼吸だ。腹が満ちるというより、心が整う。次に来るのは春季大会。

雨でも晴れでも、白い壁は同じ場所で待っているはずだ。

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