
- 価格:税込189円(セブンイレブン)
- ジャンル:洋生菓子
- 製造:江崎グリコ株式会社(グリコ乳業)
- カロリー:212 kal
「ポッキー」と並ぶグリコの顔として、1972年に誕生したのが「プッチンプリン」である。40代以上の人間に「子どもの頃のご馳走は?」と聞けば、かなりの確率でこの名前が返ってくるだろう。あの丸み、あの黄色、あのカラメル、あの“プッチン”の儀式。プッチンプリンは、おやつである前に、ノスタルジーの装置。プッチンプリンは、もはやプリンではない。日本人の“甘い記憶”そのものだ。
実績がとんでもない。2013年には、販売個数が世界一多い(51億個突破)プリンとしてギネス世界記録に認定されている。51億個。もはやプリンというより国家的インフラである。どれだけ多くの冷蔵庫に入り、どれだけ多くの子どもと大人を笑顔にしてきたのかと思うと、この一個の背負っている歴史の重みがすごい。

開発の始まりも面白い。1970年頃、牛乳・乳飲料やヨーグルトなどの乳製品は売られていたが、デザート商品はほとんどなかった。そんな時代に、「デザートをもっと手軽に楽しんでいただけるよう小売店で販売できないものか」と、グリコの開発スタッフは日々アイデアを探していた。
すると、ひょんなことから、町のケーキ屋ではプリンが高い人気を誇っており、家庭で簡単に作れるプリンの素もよく売れていることを知る。
つまり人々はプリンを愛していた。だが、もっと気軽に、もっと日常的に楽しめるプリンはまだなかった。そこにグリコは目をつけたのである。

そこで追求されたのが、「Glicoにしかできないことは何か」だった。その答えがすばらしい。お店で食べるプリンと同じように、お皿に出して、カラメルとプリンをひとくち目から一緒に食べることのできるプリンを考案したのだ。

ただカップに入ったプリンでは終わらない。ちゃんと“皿に出す”という体験ごと商品にした。そして、ツマミを折って空気を入れると容器から簡単にお皿に出せるプリンの開発に成功。

「グリコプリン」として1972年に販売を開始し、1974年に商品名を「プッチンプリン」に変更。さらにテレビCMによって知名度が向上した。ここが実に見事だ。商品を売るだけではなく、“プッチンする”という行為そのものを文化にしてしまった。

その象徴が、容器の底にある「プッチン棒」と呼ばれるツマミである。これを折ることで、プリンが皿の上に滑り落ちる。すると、喫茶店などで提供されているプリンと同様、カラメルソースが上になり、ひと口目からプリンとカラメルを同時に食べることができる。この設計が本当に偉い。最後にカラメルへたどり着くのではない。

最初から、あの甘くてほろ苦い幸福を一緒に味わえる。しかも、プリンが「プルルン」と皿に滑り落ちる楽しさが子どもたちの心をつかみ、一躍トップブランドになった。味だけではなく、動きまで発明してしまったのである。

実は、ここにおもしろい事実がある。「プッチンする派」は全体の4割以下で、「プッチンしない派」が6割以上。え、そうなのか、と思う。あの商品の核みたいな行為が、少数派。
だが、それでもグリコさんは、少数派のワクワク感を守るため、コストがかかっても製造を続けている。多数決では消せない楽しさがある。
あの“プッチン”の一瞬のために、ちゃんと機構を残している。企業の良心が、甘い顔をしてそこにいる。

味についても抜かりがない。シュークリームを手本に再現したカスタードクリームのコクと味わい、練乳とバニラの風味が特徴。ここが実に贅沢だ。ただの卵プリンではない。シュークリームのようなご褒美感を、プリンの形で成立させている。さらに、保存料と人工甘味料に加えて、着色料も不使用。安心感まできちんと整えている。

そしてこのプリンは、蒸さずに作られるため、独特のプルプルした食感とミルク感の強い味わいを持つ。いわゆる焼きプリン系のむっちり感とは違う、あの“ぷるん”の軽やかさ。口の中でゆれる感じ。ミルクのやさしさがふわっと広がる感じ。プッチンプリンにしかない食感の理由が、ここにある。さらに、時代に合わせて配合を見直し、クリーミーさを向上させている。昔の定番で終わらず、ちゃんと現役で進化している。

商品展開もまた、時代と生活に寄り添っている。1990年には「小さいサイズ3個パック」が発売。これは価格も手頃で、小さい子どもでも残さずに食べられるように配慮されたものだった。
あれは確かにうれしかった。小学生の頃、冷蔵庫に3個パックがあると嬉しかった。この途中で少し勢い余っている感じまで含めて、当時の喜びの生々しさが伝わってくる。冷蔵庫を開けて、あの3連が見えたときの高揚感は、かなり特別だった。

一方で、真逆の方向にも攻めている。1993年には、若い男性向けにさらなる満足感を追求して「Bigプッチンプリン」が発売。これが、生産が追いつかない大ヒットになった。

小さくもできるし、大きくもできる。この懐の深さ。子どもにも寄り添い、若い男性の“もっと食べたい”にも応える。プッチンプリンは、人生のさまざまな食欲に対応できる万能型なのである。

見た目も、ものすごくいい。花のように波打つフォルムが完璧だ。皿に出した瞬間、ただのカップデザートではなく、一気に“作品”になる。上に広がるつやつやのカラメルソースは、琥珀色というより、もはや甘い宝石。下のやわらかなクリームイエローとのコントラストが美しく、誰が見ても「これはおいしいやつだ」と直感できる。

パッケージもまた強い。オレンジ、グリーン、イエローの配色は、昭和から平成、そして令和まで生き残った定番の風格がある。しかもBigプッチンプリンのロゴには妙な安心感がある。派手なのに下品じゃない。親しみやすいのに安っぽくない。
さらに、ふたの上のイラストやハート柄には、どこか懐かしいかわいさがある。冷蔵コーナーで見かけると、理性より先に子どもの頃の記憶が反応するタイプのデザインだ。
そして何より、この商品の本質は味わいにある。プリンの代名詞。ドラクエのはぐれメタルに遭遇したようなボーナス感。冷蔵庫で見つけた瞬間、ちょっとテンションが上がる。手に持った時点で勝ち確。卵のやさしさ、カラメルの甘さ。この組み合わせはあまりにも王道で、あまりにも強い。プリン界の富士山。原点にして頂上。言い過ぎに見えて、全然言い過ぎではない。定番には定番になる理由がある。そしてプッチンプリンは、甘さという幸福を最もシンプルに教えてくれる。豪華すぎない。気取りすぎない。でも、食べるとちゃんと満たされる。幸福の基本形がここにある。
プッチンプリンは、子どもの頃のご褒美、皿に落ちる一瞬の高揚、そして“甘いものって、やっぱりいいよな”という人生の真理である。
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グリコさんの名品
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『月とクレープ。』に寄せられたコメント
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過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。