
大阪ミナミの法善寺横丁に店を構える「アラビヤコーヒー」は、1951年(昭和26年)創業の老舗喫茶店。先代の髙坂光明さんが開業し、現在は2代目の明郎さんがその味を受け継いでいる。
毎朝、自社工場で丁寧に焙煎されたコーヒー豆を使用し、アラビヤ式熱風焙煎と直火焙煎によって、豊かな香りとすっきりとした味わいを生み出している。大阪は喫茶店とコーヒーの街だが、その原点を伝える店。自分にとって「大阪の喫茶店」ではなく「大阪」
アラビアコーヒーの場所

アラビアコーヒーは大阪ミナミの難波の法善寺横丁のそばにある。
法善寺横丁は、長さ80m、道幅2.7mの石畳が続く風情ある路地。老舗の割烹やバーをはじめ、串カツ、お好み焼き、お寿司など、大阪らしい味が楽しめる店が約60軒並ぶ。昭和15年(1940年)までは「極楽小路」と呼ばれていた。
「法善寺横丁」の看板にある「善」の字は、一画が抜けている。これは、看板を手がけた藤山寛美があえて抜いたものだという。なんとも粋な計らいだ。

明治から昭和初期にかけては、この横丁に「紅梅亭」や「金沢亭」といった寄席もあり、賑わいを見せていた。歴史の香りが漂うこの場所は、今も多くの人を惹きつけてやまない。
アラビアコーヒーの内観

アラビアコーヒーの店内は、壁も椅子も掛け時計もテーブルまでも、すべてが珈琲色に統一され、落ち着いた雰囲気に包まれている。壁にはプロ野球選手のサインボールや写真が飾られ、店主のこだわりが詰まった空間。

ご主人は関西人のアクのキツさがなく、王・長嶋の影響で大の巨人ファン。昔はプロ野球選手を目指したが、背が低く断念した。愛情に溢れた母親の胎内にいるかのような空間。木の温もりとマスターの物腰の柔さかに包まれる。

座席は50席(カウンター7席、テーブル43席)で、1階と2階に分かれている。1階にはカウンター席とテーブル席が配置され、カウンターの椅子は先代マスターがテーブルを改造して作ったもの。2階には開店当時に使われていた手回し焙煎機が飾られ、70年以上の歴史を感じさせる隠れ家的な空間になっている。
アラビアコーヒーのメニュー
キリマンジャロ、トースト

香り高いキリマンジャロと、やさしく焼いたトーストの組み合わせはシンプルながら極上。大阪の喫茶文化の奥深さを感じさせる、優しい味わい。どこか懐かしく、これがあるから通いたくなる。ほかの豆も試したくなる衝動に駆られる。
手作りプリン

奥様の久美子さんが子どもの頃に食べていた母の味を再現。卵のコクとほろ苦いカラメルが絶妙に絡み合い、ノスタルジックな甘さが広がる。派手さはないが、心を満たしてくれる一品。
アイスコーヒーとフレンチトースト

アイスコーヒーもいいが、アラビヤコーヒーの真価はホットにあり。

フレンチトーストは厚みがあり、ふわふわの食感。しっとりとした生地に染み込む甘さが上品で、軽めの朝食やブランチにぴったり。
ブレンドコーヒー

ブレンドコーヒー(550円)は、創業以来守り続けられた味。歴史ある喫茶店ならではの深みのある香りとコクが特徴。コーヒーの歴史が6世紀にエチオピアで始まり、13世紀にアラビアへ伝わったことを考えると、「アラビヤコーヒー」の名は伊達ではない。

注文後、マスターが丁寧に焼き上げるサンドイッチ(940円)。甘い卵とケチャップの絶妙なコンビネーションが、どこか懐かしい味わい。シンプルながらクセになる逸品。
カプチーノ、ハニートースト

冬に恋しくなるカプチーノ。アラビヤコーヒーでは「カプチーノ風メランジェコーヒー」という。740円。カプチーノ"風"と名付けるその控えめな姿勢に、コーヒーへの深いリスペクトが滲む。スプーンを入れれば、ふわりと泡立つメレンジュがカップの縁からこぼれそうになる。そっと口に運ぶと、軽やかなメレンジュが唇を包み込み、その下から熱を閉じ込めたコーヒーが広がる。ほっとする甘みとコク。冬の寒さを忘れさせる一杯。優しさを凝縮したような味わいに、思わずため息が漏れる。
ハニートーストはアイスなしで660円。分厚いパンの表面はこんがり香ばしく、中はふわっと柔らかい。そのパンにハチミツがじんわり染み込み、かじれば甘みがじんわり広がる。くしゃっと歯を沈めるたび、パンの香ばしさとハチミツの甘さが絶妙に調和し、心を溶かしていく。「甘くやさしく、そして力強い」—これぞ、日本一のトースト。
ピザトースト、チーズケーキ

ピザトースト、アラビヤコーヒー、そしてチーズケーキ。これだけで、完璧なランチが完成する。
ピザトーストは、焼き立てのパンの上にチーズがたっぷりとろけ、表面は香ばしく焦げ目がついている。噛めばじゅわっと旨味が広がり、ピザソースの酸味とチーズのコクが絡み合う。これぞ、シンプルながらも至高の味。
チーズケーキは、濃厚なクリームチーズの味わいとほのかな酸味が絶妙なバランス。甘すぎず、口の中でゆっくりと溶けていく。ひと口食べれば、心がほぐれるような幸福感に包まれる。
どれもこれも、ただ"美味しい"だけではない。アラビヤコーヒーの職人技とこだわりが詰まった一品たち。丁寧に焼き上げられ、心を込めて淹れられたコーヒーとともに楽しめば、喫茶店文化の奥深さを改めて感じることができる。
道頓堀の思い出
大阪ラーメンの顔
難波といえば自由軒
ぬくもりを感じるアイス
130円の大阪のご馳走
やさしき出汁の記憶
みっくすじゅーすの旋律
中華の王将
螺旋階段の先に広がる時間旅行
大阪きつねうどん
大阪喫茶の原点
浪花とんこつの真髄
食の憶い出を綴ったエッセイを出版しました!

『月とクレープ。』に寄せられたコメント
美味しいご飯を食べるとお腹だけではなく心も満たされる。幸せな気持ちで心をいっぱいにしてくれる、そんな作品。
過去を振り返って嬉しかったとき、辛かったときを思い出すと、そこには一生忘れられない「食」の思い出があることがある。著者にとってのそんな瞬間を切り取った本作は、自分の中に眠っていた「食」の記憶も思い出させてくれる。